主人公のいないところで_Ⅲ
相対するは反逆者。
二択と言って結局三択な上に、全てが高度で俺には地獄な選択肢は、結局一番危ない〝反女王派〟に会うことにした。別にプレイヤーであることを明かすのはよかったが、隠し通せば、自分は殺し合いゲームの傍観者いられることが可能だ。別に自分から殺されに行かなくてもいいのだ。あ、勿論殴られる選択肢はなし。俺はマゾヒストではない。
今は蜜音さん、真桐さん、凛音、俺、白夜の誤認で、愛神市を出てすぐにある花舞市に来ている。愛神市を抜けると賑やかだった空間は失せ、今いる場所では沈黙ばかりが続いている。まっすぐ前を歩く白夜も何も話さず、ただずっと周りを警戒している。
今まで愛神市から出たことがない俺には、この風景は異常だった。
「なぁ、なんでこんなに人がいないんだ? 学校も、もう終わってるはずだろ?」
「外に出たいなんて思うわけねーよ。ここ、影では愛神市の引き立て場だって言われてるんだぜ?」
「なんで蜜音さん、そんなこと知ってるんですか?」
「家族で旅行言った時に、愛佳から聞いた」
流石は国の宝。流石は世界の女王。一般市民では知らないことを当たり前のように語る。情報がどこから来ているのかは知らないが、きっと国の関係者だろう。リリス・サイナーであることが分かっている以上、国から接触がないわけがないのだから。
政府――結局は女王の手足。その立場を甘んじて受け入れ、そして歓喜している信者ばかりの集団とも言える。
力である「<語り人形>」を使ったのだろう。電子的な声で、真桐さんが言った。
「花舞市。愛神市から東の方向にあり、陰東都からの〝門〟があり、人口が少ないことで有名。別名が愛神市の引き立て場。特に名産物もなく、特に目立ったところもない。信者は多いが住人が出てこないし、不可解な現象が起こることから、周りからも忌避されている」
「不可解な現象? げーと?」
「そう。〝第二の愛神市〟って言われてるんだ。ゲートって言うのは、愛神市を囲んだ大きな障壁があるだろ? そこに大きな門があって、それがゲートって呼ばれてるんだけど、そこから許可を取らないと、普通は愛神市の外には出れないんだ」
「じゃあ、〝第二の愛神市〟って言うのは?」
「愛神市は、怪異の集まる町って言われている町があるだろ?」
「あ」
怪異の集まる町――それは愛神市の中の二陽町というところがあり、そこの近くの光聖歌学校の校舎が一夜で全壊、翌日に全てが治っていた、など。または幽霊が現れた未確認飛行物体宇宙人をみたなどの噂が絶えない。また、夜に通る死神がいるとか言われており、死者も多いことからそう言われている。つまり、花舞市の第二は怪異の集まる町を指しているのだ。
中央にはリリス・サイナー像がある愛神学校。
西にはアレイル・レートシンス像がある光聖歌学校。
東にはレイメル・オーギュスト像がある陰東都学校。
北にはコンライト・アモーレ像がある、癒北子学校。
南にはセプリアドゥー・ドゥーウェン像がある死南音学校。
それら五つは中央にある愛神学校と囲んだ、それぞれの方角の神が祭られ、そして代表する学校。本来なら死神の噂は死南音に出るはずが、しかし陰東都に噂されている。それ自体も、奇妙な話だ。
「死神の噂――それが〝反女王派〟がここにいると思った理由か?」
目的地があるのだろう、まっすぐ歩く白夜に問う。
「それもあるけどな。まあ、一番はお前の所為で用事が出来たから」
「俺?」
「そう。俺、愛佳の眷属になったからよ、力、試してみようかと思ってな。お前も力、使い慣れてたほうがいいだろ」
心底の感情が読めない。前しか見ずに言った言葉は軽く、盗み見た横顔の表情は変わらない。だが、どこか有無言わさない強い言葉は、裏があるように思えた。
そもそも、力を試すのに、どうして俺の所為なんだ?
「着いたぞ」
足をとめたのは、大きな倉庫のある民家の前だった。
特に変哲もない、その家。だが、隣にある倉庫を見てからは、何やら尋常ない頭痛と近寄るなという警告。あきらかに、洗脳の力が漂っている。
「おい。開けるけど、準備はいいな?」
「ちょっと待て。何、人の家の倉庫、勝手に開けようとしてるんだよ。そもそも、そんなところに〝反女王派〟がいるのか? それに、会ってどうするんだよ?」
「おいおい、それ全部答えろってか? めんどくせーな、お前」
「何も言わずに二択の壁を超えた選択肢を突きつけたのは、誰だろうか」
それは、目の前のエロ魔神である。
「人の倉庫にいるから、開けるんだよ」
「何がいるんだよ」
「〝反女王派〟」
「…………はあ」
「信じてねえな。あと、会ってどうするかは、決まってるだろ?」
語尾に音符でも付きそうな弾んだ声で言いながら、白夜が笑った。無邪気に笑っていると幼く見え、それでいて似ていると思った。アイツに、樋代に。
何が決まっているのか聞くと、何言ってんだよ、と白夜は呟き、倉庫のドアを無理矢理開けると同時に、言った。
「敵に会うって言や、そりゃあ戦うために決まってんだろ」
そして、開けて見た倉庫の中は、外からは想像できない広さを持った、〝部屋〟だった。空間の制御を感じさせない、その場所。
そこにいたのは、二人の少女と二人の少年。
少女の内の一人は、見慣れた元親友、忍足秋名。樋代から聞いた話では、殺された彼氏――夏名の復讐をするために〝反女王派〟に入ったとか。
もう一人に少女はゴシックロリータを身に包んだ、忍足秋名より慎重の低い、会ったことのない子だ。その身長は、少年の内の一人、祝福の碧眼を持つ少年と同じくらいだ。
最後は黒髪の半純血に、碧の目を持った少年。祝福の子の前で、いきなり乱入していきた俺たちから守るように立っている。
「よー、久しぶり、イリア」
緊張感のない声を出すのは白夜で、その言葉は忍足秋名の隣にいる、ゴスロリの子に向けられていた。
「肯定。お久しぶりです、白亜」
ゴスロリの少女がそう返す。白夜を白亜と呼んだその声は、微かに震えていた。
白夜はその言葉に返事をせず、何かを呟いて行き成り攻撃する。相手は話していたゴスロリの少女だ。その〝黒〟は目に巻いていたレースを外しながら後退。それと同時に、忍足秋名が隣で力を使い、攻撃を拒絶する。
――――が、その拒絶を、白夜に〝拒絶〟された。
「な、」
「<無秩序>」
自由を意味するaffrancareを叫ぶと、倉庫が音を立てて崩れ始めた。外で傍観していた俺たちは、崩れていく倉庫から距離を取った。白夜も、自分がやったこととはいえ、ここまで力が出るとか思わなかったのだろう、巻き込まれないようにその場から離れた。
スローモーションのように見えたその光景は、倉庫内からあふれ出た光によって、見えなくなっていく。
あっという間に崩れた倉庫の場所に、忍足秋名とあとの三人はいなかった。周りを探しても出てこないということは、なんらかの力を使って移動したのだろう。
俺に、〝反女王派〟を逃がした悔しさはなく、かわりに、白夜への異常を知った。
一発であの力は、リリス・サイナーの眷属になったとしても、有り得ない。あれだけできるのは、神の直接加護者のみ。
白夜、何者だ――?




