主人公のいないところで_Ⅰ
片手をあげて入ってきたのは、宿敵と思い人の兄。そしてプラスα。
相変わらず能天気な神の声が、頭の中で響く。体内に直接棲んでいるため、声は脳に直接響いてきて、無視することができない。この陽気な神は、どうして体に入ってくれた。夜中も大声が聞こえて眠れないし、しかもそれが止めようのない脳内の声だから、何かに八つ当たりしたいと思っていた。
そんなイライラの中、決して愉快とは言えない四人組が会いに来た。
一人目、友達。樋代経由で知り合った、アイツの親友。なんでもずっと前から仲良いらしい。でも、幼馴染かと聞くと違うと言われ、意味が分からなかった。
二人目、樋代の兄、蜜音さん。前髪を赤ピンでとめて、ジャージを着ている。見舞い品だと言ったお菓子を自分で食べている。そんな、くださいよ。
三人目、前髪のおかしい先輩。市来真桐という名前がちゃんとあるのだが、蜜音さんは前髪と呼んでいる。いい人すぎて時々存在感薄い人。気を緩めたら名前を忘れてしまうため気を付けないといけない。
そして、四人目――――宿敵、藤堂白夜!
珍しい銀髪に赤と青のオッドアイ。憎い。Tシャツの上に緩く着たワイシャツは、首元の色気を十分に放っている。よし、憎い。耳に着けているピアスが妙に似合う。うん、憎い。蜜音さんよりも真桐さんよりも高い背。ああ、憎い。きっと、俺に足りなかったのはこの色気と背だ。
「あー、何、何で睨んでんの?」
「目の前に嫌いな奴がいるからだよ」
「嫌い、ねえ。初対面でどうやって嫌うんだよ?」
「ふざけんな! 俺の順位落としやがったくせにい……」
「はあ? 順位?」
蜜音さんがプリン二個目を口にし、凛音がアイスを食べ、俺が真桐さんから貰ったチョコを口に入れる。そんな中真桐さんが、怒った後に落ち込んだ俺を慰めながら、白夜にもランキングの説明をする。なんなんだ、この野郎! 俺がこんなに気にしてるのに、相手は存在自体知らないだと! しかも聞いた後の面倒くさそうなその顔!
「…………ま、頑張れ」
「はんはれ~」
「蜜音さん、食べ終わってから喋ってくださいよ」
応援されて何も言えなくなったので、とりあえず注意しておく。
「それで、凛音はともかく、蜜音さんも真桐さんも分かるとして、なんでお前が見舞いに来るんだよ?」
「俺も先輩なんだけどよー」
「敬語は敬意のある人にのみ使われるのだよ」
手でバツを作ると、敬意はないと自覚しているのか、苦笑いして視線を逸らした。どうせなら悔しそうにすればいいのに。そうすれば俺の入院生活は一週間ぐらい縮まる。そうしたらもう退院だけど。
覆った包帯もそろそろ解いてもいいだろうと思える。怪我の治りが早いのは、体内に神的な居候を飼っているからだろうか。
「俺は…………説明は凛音がしてくれるだろ」
「誘ってきたのはどちらだ、まったく……」
「何その思わせぶりな会話このバカップルどもめ滅べそして樋代に二度と近づくな」
「悠馬、落ち着け……」
この会話で分かった。この親しげな雰囲気を見せつけている凛音と銀髪は、自分から聞き出すように思わせぶりな態度を取り、そして最後には理由を言いながらイチャイチャするのだ! 当てつけだ! そして、俺はいつでも落ち着いているぞ!
――――うん、ハイテンションになりすぎた。
「わたしと白夜が会いに来たのはな、お前がプレイヤーか聞きに来ただけなのだが」
「それのどこが〝だけ〟なんだろうな、………………なんで知ってんの?」
「わたしは白夜に聞いただけで、情報源は知らない」
背後の銀髪に振り替える。何でだ?
今まで、入院していたこともあってほどんど人に会ってない。だからこの能天気な神の存在に気付かれたことはなかった。誰にも言ってないし、誰にも指摘されたこともない。ならば、何故気付かれたか……。答えは決まっている。
「お前――」
「お?」
「俺のストーカーだな、このホモ野郎!」
「あぁ?」
「冗談だよ! 神器使ったんだろ!?」
「おうよ」
神器――神の力が込められた、媒体である物。それは加護者自身作ることも出来るが、大体は元々作られたものが使用されている。自身で作ったものでは、いつ神器の力が無くなるか分からないからだ。神器は使い捨て決定されているのである。古くから使われている神器は何回でも使えるが、自身で作った物はせいぜい一回二回程度。
だが、自身で作らなければ使用できない神器を、どうして目の前にいるこの男が使えるんだ? 盗聴や監視などの長時間使う神器は、莫大な量の力がいる。国が関わっているか、それぐらい強いのか、それとも――樋代を使ったか。
「あー、使ってねぇよ」
「〝あー〟ってなんだよ、おい。しかも心読むなよ」
「無理無理。俺の【見透かす目】は制御不能の鷹の目だから」
「テンションどこ行った」
なんでもないような顔でボケているためか、宿敵の性格が掴めず、更に恨んでいる自分が馬鹿らしくなってきた。きっと、これが策なのだ。策にはまってしまってはダメだ。俺はその性格には騙されないぞ!
――――ねえ、別に騙しているわけじゃないと思うけど?
「うっせえ」
「どうした。独り言で無愛想に言うと痛いぞ」
「知ってるし! てか、話逸らすなよ。プレイヤーって知ってるのは神器だからか?」
男は一階悩むフリをしたが、無表情で首を振り、先程自分がやったバツを手で作った。その時に顔を見上げれば、意地悪そうな笑みに変わっていた。容姿にあった美声で内緒、と言うと、機嫌よくなったようで、俺の背中をボンボン叩いてくる。
「まあ、そんなことより、よ」
「そんなことがめっちゃ気になるんだけど」
「気にするな。それで、お前には二択の選択肢がある」
「そうデスカ」
偉そうに足を組み、右手で三つ指を立てた。様になっているところがまた憎たらしいのだが、文句を言えない正確をしているから、もどかしい。
どうぞの意味を込めて凝視すれば、少々笑みが混じった真顔で言った。
「一、俺と凛音に着いて行って愛佳にプレイヤーであることを明かすか。二、俺と凛音に殴られるか。三、俺と凛音に着いてきて〝反女王派〟に会いに行くか。さあ選べ」
もはや二択ですらない。




