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リリス・サイナーの追憶  作者: Reght(リト)
第三章 セプリアドゥー・ドゥーウェンの死想
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認証式_Ⅲ


 全てが揃う日。


 乃一が剣を手に、今度はイリアを狙う。自ら力を使い、同じようにイリアを庇う盾を創り、その盾で剣を〝拒絶〟する。拒絶された剣はボロボロに崩れ、砂になっていく。その様子に驚きながら、呆然している乃一の腹をイリアが足で蹴った。飛んで後ろに行き、倒れそうになった体を、東城が受け止める。流石、従者。


 受け止めた体と共に後退しながら、腕を振るう。イリアの足元から拾い、振るわれたナイフの狙いは、自分だ。それを小さくした盾で防御すると、そのナイフは消えてなくなった。だが、砂にはならず、霧のように跡形もなくなったのだ。

 気付いて見れば、イリアの足元にあったナイフは、なくなっていなかった。拾ったフリだけしたのだ。


 イリアがナイフを広い、乃一を庇って前に出た東城を狙う。東城はそれを受け入れ、わざと手を翳すと、手の甲が割けて血が出る。ナイフは威力を失い、後ろにいた乃一の横に落ちる。

血が出た東城の手が青く光り、怪我が治っていく。それが彼の性質で、一般的な性質の一種、【癒し手】だ。


 乃一が腕を振る。飛んでくるのは、ナイフの幻覚。分かったのは、【見透かす目】を使って振るった腕を見たら、黒が纏っていたからだ。避けずに無言のまま、片手を上げて合図する。

 ニールが後ろで影を操り、攻撃に移る。影が二人の体を貫かんと、先端を尖らせ、襲う。まだ腹に手を当てて座り込んでいる乃一は、庇っている東城の焦りの顔を知らない。


 最小限の被害にするためだろう、乃一に被さり倒れた東城。そして、ニールが操った影を、――東城の影から出てきた〝純血〟が、消滅させた。

 黒の髪。黒の瞳。その姿は闇。纏うは殺意。



「…………今、下っ端とは言え、神と衝突するのは避けたい」

「ディー!」

「貴方……誰?」



 ニールの影を消した闖入者は、無表情で意見した。ディー、と呼んだ乃一とは知り合い、しかも愛称で呼ぶ仲。彼らを庇うように出てきたと言うのは――そう、敵だ。

 闖入者は問いに答える際にニールをじっと見つけた。その目には、〝反女王派〟を見る侮蔑は入っていない。むしろ、多少の敬意が込められていた。



「俺は〝死〟を司る神――セプリアドゥー・ドゥーウェン。聞いたことがあるだろう、五大神の内の一柱だ。そして、そこにいる餓鬼の加護をしている」

 餓鬼、と呼んで指さしたのは、乃一。

「五大神――」



 乃一は、敵だ。親しそうにしているなら、そう、敵なのだ。それは死刑宣言に近い。なんの策もなく、最強の五つに数えられる神に、喧嘩を売ったのだ。勝てるわけがなく、逃げることも出来ない。死神の鎌は、どこまでも追ってくるのだから。

 自分が震えている間に、イリアが死神の前に立った。



「質問。疑問。その口ぶりでは、貴方には戦意がないように聞こえます」

「聞こえるのではなく、そうなんだ。実際、こちらに戦意はない」

「嫌疑。そちらの方とは、既に一戦交えておりますが」

「それはこいつらの判断だ。もう手は出さない」

「……………………質問。どうなされますか、秋名」

「イリア、念のためニールの後ろへ。死神、一戦交えて終わりなんてことはないわよね?」

「交渉材料を追加する。話を聞け」



 通常の神がする不遜な態度とは違う、誠意のある口調。まだ偉そうな雰囲気は消えないが、これは好都合だ。相手は五大神。こちらは下っ端の小さな神。敵うわけがない。あちらに戦意がないのなら早々に逃げたいが、まだ交渉をするつもりなら、自分らは殺してはもったいないとでも思っているのだろう。それなら、きっと、殺されはしない。



「嫌疑。手短にお願いします」

「そちらは相手に顔を見られることを気にしているのだろう。それをこちらで補助しよう」

「…………疑問。貴方たちが有利なはず。こちらにこだわる理由が不明です」



 イリアがそう言えば、死神は黙る。聞かれてはまずいことなのか、それとも理由がないのか、それとも――いざとなれば、こちらは捨て駒になるからか。

 リリス・サイナーを入れた、最強五柱。

 その中の四柱が本気を出しても、リリス・サイナーは屈しない。

 微力とはいえ、ニールは神。利用する手は考えられる。



「嫌疑。答えられないのですか?」

「もう、いいわ、イリア。その話受けさせてもらうわ」

「助かる。日にちは十七日で問題ないか」

「ええ。どこで集まるの? まさか現地集合なんてないわよね?」

陽野高(ひのたか)公民館の前がいーなーって」



 割り込んできたのは、今まで死神を睨んでいた乃一。何が不満かは知らないが、子供のように口を尖らせて拗ねている。

 陽野高は愛佳が住んでいる場所に近い。鉢合わせする確率は少ないけど……、気に入らない。それでも、そんな小さなことで突っかかっても意味ないか。

 軽く返事して、二人と一柱を追い出した。まったく、どうしてこんなことになったのかしら。













「十七日と十八日……どうして二日もいるの?」

「意図は分かりませんが……伝統ですので」



 部屋を移動し、凛音が来ないまま、そして白夜が出て行き、日熊恵一郎とひなつくん、そして僕の三人だけとなった部屋で会話する。

 今月の十七日、十八日は学校が祝日となり、愛神市の中央広場で大きな祝会が行われる。それは、ようやく見つけたリリス・サイナーへの祝福と、〝二つの槍〟の認証式があるためである。〝二つの槍〟はリリス・サイナーに認められて、本当の槍となるため、認められ、それを多くの人に証明するための式である。


 一日目、十七日は〝二つの槍〟がリリス・サイナーに槍を差出し、忠誠を誓う。

 二日目、十八日はリリス・サイナーが〝二つの槍〟を認めたと称し、槍を返す。

 それが終わった後、〝二つの槍〟は国と女王に認められるのだ。



「それにしても……二つの槍認証式ねえ」

「何か気になることでも?」

「いやはや、警備は大丈夫なのかな?」



 ニヤリ、と笑う。目の前でひなつくんが国が動くから大丈夫だとか、いざとなれば貴女が動くことになりますが、とは言っているけど、全てスルー。

 だって、それ、大丈夫だとは言わないよね?

 神から直接加護を貰っている秋名が来たら、警備の意味がなくなるよね?

 それに、仲間も連れてくるんじゃないかな?





「まあ、いいや」

 ――――――――それも面白いしね。まあ、認証式が壊れない程度に遊ぼうか。


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