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リリス・サイナーの追憶  作者: Reght(リト)
第三章 セプリアドゥー・ドゥーウェンの死想
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認証式_Ⅱ


 彼女は言った。目的がある、と。


 部屋に招いたのは、エレジィゲームの参加者で、悪魔側の一柱。悪魔の加護を直接貰っている上に、生まれつきの〝原罪の子〟。

いつ攻撃してくるか分からない、いつ裏切るのか分からない。無表情なので感情も読めないし、目的も言わない。疑うのは、きっと自然だと、思う。

 〝反女王派〟に入りたいというだけで厄介なのに、彼女は自分と同じくらいに力が強いとなると、監視までしなければいけないのだ。初対面の人と、この倉庫の中で住むことも強要されるし。どうしてこうなったのかしら?


 だが、今はそれよりも厄介な存在がいるためか、どうでもいいように思えてしまう。アモンと名乗った彼女――イリアの隣にいる、男二人。

 一人は茶髪の祝福の子。浮かべている笑顔は無邪気に見えるが、その奥は人を殺すしか考えていない、狂人。腰に黒の剣を持っている、妙に見覚えのある人。いや、会ったことがあるのだ、あの日――復讐を誓った日、狐面と会う前に、ぶつかった人。名前は乃一(おいいち)桐吾(とうご)

 もう一人は、半純血――黒髪を持った子。目は数多い、深緑。見ている限り、桐吾の従者。睨むようにアタシとイリアを見ている。提案を拒否した場合、何か仕掛けてくるのは一目瞭然。殺伐とした空気に馴染んでいる。この人の名前は、東城大地。


 この二人は、イリアを部屋に入れようとした時、割り込んできた闖入者だ。いきなり出てきた不審者二人に、イリアは殺そうとネックレスを引っ張ろうとするし、ニールは加護者であるアタシの安全を優先して、イリアを置いて瞬間移動しようとするし、大変だった。驚いたのは分かるが、取り敢えず殺す、というのはやめてほしい。事情も何も分からん。


 話を聞くと、仲間に入れてほしいではなく仲間に入らないか、という勧誘。こちらは派閥、あちらは単独。普通は入れてほしい、と言うんじゃないの?

 そして、こうも簡単に仲間が入るのはおかしい。イリアの時点では半信半疑だったが、今ではもう半分も信じていない。従者を連れているお偉いさんなら、余計に怪しい。



「――――それで、どうするんだ? 受けるのか、受けないのか」

 低い声で急かすのは、東城大地その人。

「そう言われてもねえ……。確かに、行動するのは十七日もいいと思うけど、やっぱりその後の十九日がいいと思うのよね。貴女たちが信用できないのもあるけど、今、アタシはイリアと行動しているわけだし、独断ではどうも言わないわ」

「一個人としてはどうなんだ?」

「……賛成しかねるわ」



 悩みに悩んだ末の結果だが、やはり迷う。策を考えれば警備をするサイナーを超え、〝二つの槍〟まで辿り着けるだろう。この二人が〝二つの槍〟を押さえている間に自分とイリアがリリス・サイナーに攻撃。確かにいいものだが、逆に〝二つの槍〟の時点で足止めされれば、リリス・サイナーには辿り着けず、乃一桐吾と東城大地に協力するだけで終わってしまう。


 愛佳がどう思っているかは分からないが、彼女が情報提供していないため、まだ警察に顔バレはしていない。二人に協力して失敗すれば、ただ自分が損するだけだ。

 東城大地の視線はイリアへ向く。イリアは黒レースを目に当ててはおらず、オッドアイを晒していた。



「拒否。〝原罪〟もその意見には賛同しかねます」

「…………どうなされますか、桐吾様」

「そうだねえ」



 呑気な声は悩んでいるようにも聞こえるが、その人の表情は決して悩んでいない。むしろ笑顔のまま動かず、歪に拍手した。低年齢の子供のような仕草は、あえてしているのか、それとも素でやっているのか。どちらにしても気味が悪いのには変わりない。

 乃一桐吾の目が、爛々とした。



「じゃ、取り敢えず口封じしようか?」

「了解しました」


「イリア、ここで戦力を削ぐわけにはいかない。ニール、出て」

「了承。自身にも関わるので従います」

「――――」



 立ち上がる東城。剣に手をかける乃一。集中するイリア。無言で頷くニール。顔を上げる自分。ここで、こんなところで、しかも、リリス・サイナーを狙う自分以外に、――殺されて、たまるか! あれを殺すのはアタシだ!

 性質である【見透かす目】を使い、ただの脅しではないことはもう確認済み。あとはイリアの戦力を見て、相手の力をどう利用できるか、考えなければ。


 相手は口封じのためで、保身のためでもある行為。でも、自分は違う。この勝負で彼らに勝てれば、気が変わったと言って、支配下にするだろう。それは実に狡猾なことだ。でも、そうでもしないと彼女には勝てないのだから。自分がしたいのは、彼女が思っている〝嫌がらせ〟ではなく、〝反抗〟して、出来れば〝勝ちたい〟のだから。


 イリアの目が光る。乃一の座っていた床が割れた。まだ割れた地面の底には落ちていない、今まで自分が座っていたイスを土台にし、自分に跳躍してくる。一歩前に着地すると剣に手を伸ばし、光る刃が襲う。ニールが後ろで影を操り、盾にし、またその影で乃一の足に絡みつく。



「<死想(rimembrare)>」

「<欺瞞(mentitore)>」



 追憶を意味するrimembrare(リメンブラーレ)を叫びながら、乃一が足を動かすと、巻きついていた影が消滅した。浄化されたように、跡形もなく。

 偽りを意味するmentitore(メンティトーレ)を呟くように言った東城は、何の行動もせず、目を光らせるイリアを凝視した。


 まだ一歩も動いてない自分が冷静に状況を判断できるのは、加護をしているニールのお陰だ。誰も動かなくなり、ニールが守ってくれると判断して、イリアにもう一度目を向けた。東城は、動かない。動く必要がないと判断したのだろう。どのようなサイナーかは知らないが、絶対の自信が見える顔。


 イリアは無言で東城の顔を見ていたが、その表情は自分の右手を見て強張る。視線の先にある右手は、手首から先がゴッソリ無くなっていた。それは、最後に愛佳と会ったあの部屋で、二人の子供が首を無くした、あれに似ている。切れ目が同じだ。

あの時、自分は愛佳が何かをしたのかと思っていたが、――あの頃から、見張られていたんだ。


 それにしても、今の今まで気付かないのは、おかしい。痛みがあるはずだ。それに、対して集中を見せない東城の顔は、動いた後とか思えないものだった。正体不明の攻撃に、対策を見出すのは――自分の性質【見透かす目】だ。

 赤い目に対して青く光らせ、イリアの右手を見る。右手に纏う色は――黒。それは、〝嘘〟の証。〝無くなった〟のが〝嘘〟ならば、――そう、これは。



「イリア」

「不覚。疑問。どうなったか分かりますか?」

それ(・・)()よ」



 そう言うと、ニールのナイフを投げる。イリアはそれで、迷いなく元々手があった場所を刺した。そして、そのナイフは、――〝刺した〟。



 イリアが苦痛と共に得たのは、綺麗な右手。



「驚愕。納得。幻覚ですね」

 見破られた東城は舌打ちした。









「正解。俺のサイナーは【全てを欺く力】だ」

 忌々しそうに言ったその言葉に、もう一度戦闘が開始される。


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