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リリス・サイナーの追憶  作者: Reght(リト)
第三章 セプリアドゥー・ドゥーウェンの死想
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アモンと道化師_Ⅱ




 夢から醒めた物語のお姫様は、はたして幸せだったのだろうか。現実はいつだって残酷なものなのだから、きっと、夢に溺れていたかっただろうに。


 目を開ける。それだけの行動に忌々しく思う。どうして、生きているんだろうって。

 あの時、もし自分が彼の異常に気付いていたら、どうなっていたのだろう。もしかしたら、自分は彼を助けられたかもしれないし、彼と一緒に愛佳に殺されていたかもしれない。

 心にあるのは後悔のみ。


 そもそも、衝動で〝反女王派〟に入ったが、ただの中学生一人が一つの派閥を纏められ上げるわけがないのだ。勢いに任せて契約した歪な狐面は何の神かも教えてくれないし、名前もまだ知らない。それに、まだ〝反女王派〟の仲間に一人も会っていない。どういう料簡だろうか。面倒くさいだけなのかもしれない。


 あちらはあちらで、エレジィゲームなんて始めているし。あのゲームのルールだと、多くの敵もできるが、最終的には大きな戦力が愛佳の味方になる。五大神を退けるなんて、一介の派閥が出来ようはずもない。策に自信があるかと言えばそこそこだし、戦力はそもそも自分以外の〝反女王派〟にまだ会っていないから分からない。

 体を起こした時、背後に一つの影。歪な狐面をかけて、何時も通り青い唐傘を持っている。あれは日傘変わりなのだろうか。それとも趣味が悪いだけなのだろうか。


 今いるのは、愛神市を抜けてすぐにある花舞(はなまい)市にある、使われなくなった家の倉庫だ。倉庫を周りから見えないように拒絶の力を使い、中に入って広さを〝拒絶〟。そうして、広くなった倉庫で隠れて暮らしているのだ。

 食糧などは周りに〝反女王派〟だとばれていない派閥のものが分け与えてくれているらしい。そこらへんは詳しく知らないが、ニールが言っているから、きっと大丈夫なんだろう。ちなみに、ニールというのは狐面のことで、呼び名がないと不便だからと自分が着けたものだ。



「どうしたのよ。アンタ、用がないと来ないでしょ」

「――――」



 ニールは無言のまま、影で模した指を、背後に向ける。そこは、この家もどきの玄関である。つまり、外に行くと言っているのか、会わせたい人がいるのだろう。自分も何も言わずについて行った。


 ニールに続いて出た玄関前には、〝黒〟がいた。フリフリのついた黒いは、ドレスにも見えて、一瞬驚いた。

 そのドレスの後ろの腰の部分には黒色の大きなリボンがついていて、動くたびに黒髪と共に一緒に揺れる。黒の日傘を持っているところが、ニールに少し似ていると思った。ガーターベルトに黒のニーソックス。極めつけは目に巻きつけた黒のレース。何重にも巻かれていて、中の目が見えないようになっている。首元には髑髏のネックレスをつけていて、その場からは明らかに浮いている。

 いわゆるゴスロリと呼ばれるその衣装を纏った彼女は、アタシとニールを見て一言だけ口にした。



「――〝反女王派〟に入れてほしい」

「え?」

「入れて」



 第一印象からおかしいとは思っていたが、第二印象はただの怪しい人になってしまった。真正面から反女王派に入ろうなど、まず疑われると分からないのだろうか。特にこの時期なら、リリス・サイナーの信者だと一番に疑われる時期なのに。



「本気?」

「本気」

「裏切らない証拠を見せて頂戴」

「…………」



 我ながら無理なことを言っているのだが、彼女は少し沈黙した後、小さく頷いただけで、不満を漏らしたりしなかった。

 彼女は自分の首にかけている髑髏のネックレスを引っ張る。すると、目に巻きつけていたレースも一緒に落ち、目から離れていた。


 レースが取れて露わになったのは、歪な両目だった。


 右目は神の目を崇められる金色。でも、ただの金色ではなく、時計をはめ込んだみたいに長針と短針があって、数字の変わりに英語がならんでいた。

 左目は忌み子と蔑まれる赤色。でも、ただの赤色ではなく、中ではトカゲのような〝何か〟の影は這っていた。



 そして、片方の赤目が光った時、ニールが今立っている土地が、割けた。そう、割けたのだ。


 髪は黒。あの両目ではなければ、きっと目も黒になっていただろう。黒髪黒目は〝純血〟は一部の例外以外、ラインであることが決まっている。だが、その中で半純血の黒髪で、必ずオッドアイで、その両目は歪なもので、そして――片目が必ず赤目であること。

 それを条件にした、純血であり、〝本物の〟忌み子と呼ばれる。



「…………〝原罪の子〟」



 〝原罪の子〟。――赤目を持つ子が忌み子と呼ばれた原因。

 昔、黒髪黒目で純血だった子が、行き成り目の痛みを訴え出した事件。その子の目を見たが、何も異常はなく、発狂した子の精神が可笑しかったのだろうと囃し立てられた。だが、その子が痛みを訴えた次の日、目は赤と金のオッドアイになった。そして、その片手の赤に宿った、ラインにないはずの、サイナー。

 それを酷使した子が人間を虐殺し始めたことから、赤目は忌み子として嫌われていたのだ。



「〝原罪〟には目的がある」

「目的?」

「忌み子を蔑まれる世界を壊すこと」

「――――だから?」

「〝原罪〟はエレジィゲームに参加中。神側であるリリス・サイナーを討つ。それが理由」

「…………」

「だから、〝反女王派〟に入らなくても、他と組めば叶えられる可能性大」



 彼女の言葉は、自分は別に入らなくてもいいし、でも貴方たちの利益にもなるから手伝ってあげる、という上から目線での言葉なのか。それとも、目的が一緒なだけだから信用できないなら〝反女王派〟に入れなくていい。でも、協力し合わないか、と言う提案か。

 前者である可能性が高いが、確かに彼女が〝反女王派〟に入れば、戦力になるのは間違いない。


 〝原罪の子〟の力が、現在、拒絶の力を持つニール以外、即戦力のない〝反女王派〟に入ってもらえるのは、それは嬉しい誤算である。

 だが、彼女に対しての情報がないし、結局〝原罪の子〟であることをばらして、証拠を示すのをぼかした。話の途中でも、自身の目的は口に出していないし。

 自分も、今は国家反逆罪を背負った犯罪者なのだ。迂闊に人を信用出来ないし、彼女を認めるための情報集めもできない。

 人の目は、いつでも近くにあるものなのだから。



「分かったわ、認めましょう。ただし、初対面の貴方をまだ信用することはできないから、協力するのはリリス・サイナーを討つ計画のみよ、いい?」

「了承。こちらも深入りはよしてほしい」

「興味ないわ。でも、今日からよろしく……ええと、なんだっけ?」



 名前をまだ聞いていないことに気付く。彼女は黒レースを目に巻きつけ直し、ネックレスを首にかけると、こちらに向き直った。

 黒色のスカートの裾を持ち上げて、昔の貴族の令嬢がするような挨拶をして見せる。




「〝原罪〟の名前は――神崎イリア。エレジィゲーム悪魔側、立ち位置は七十二柱の一柱、アモン。〝眷属〟はいません」


 彼女は、淡々と言った。





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