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リリス・サイナーの追憶  作者: Reght(リト)
第三章 セプリアドゥー・ドゥーウェンの死想
76/116

嘆きの白_Ⅲ

久しぶり悠馬くん視点。



 体内に棲むなんたらかんたら。方程式に神と言う文字が来るのはまずおかしい。


 病室の生活と、神様の相手をして今日で三日目となった。これまで樋代どころか先生以外誰も見舞いに来ていない。寂しくはない。むしろ、体内で居候している神様の相手をするのは大変だ。


 今は自分と体内居候以外いない病室で、これまで動いてなかった体に動きを慣らしている。これを二日繰り返しただけで、前は治療室だったのが、今はもう病室に移される結果となった。これは僥倖だ。


 二日前。真剣な声音で提案されたゲームは、昨日の夜に解明された。ずっと何のゲームか、どういうゲームか、教えてくれなかったのだ。自分が言い出したことなのに。ゲーム、イコール、エレジィゲームの方程式も、しばらく考えてようやく分かった。


 リリス・サイナー主催、エレジィゲーム。それは悪魔側、天使側、神側のチームに分かれ、プレイヤーたちが殺し合うサバイバルゲーム。毒殺もよし。虐殺もあり。サイナーを使わず射殺もよし。今ある権力を使うのもよし。殺し方は自由だ。


 そして、俺はそのプレイヤーに選ばれたらしい。何これ笑えない。

 今、自分は怪我人。始まるは殺し合いのゲーム。うん、笑えない。


 プレイヤーにはそれぞれ立場があり、俺はアレイル・レートシンスの加護者で、神側の第二位の実力者、になるらしい。だが、それは期間限定で、今は反女王派にやられた傷を癒している、つまり休養中の神――時を司る神アルト・メディオエーヴォが復帰したら、こちらと交代するらしい。代役で入ってきたのは、傷を癒すためと、我慢できなかったリリス・サイナーのためというわけだ。


 笑えなくて緊張で真顔になってたからか、勢いでアイツは何側かと聞いたら神側と言ってきたので、取り敢えずよかった。でも、大体予想は出来た。アイツには悪魔やら天使やらは似合わん。悪魔は性格を表しているし、天使は美貌を表せるが、全てを纏めて、神が相応しいのだから。


 だが、ここで一つ矛盾が生じる。

 俺はプレイヤーだと言ったが、リリス・サイナーが頭に直接入れてきた説明書にあったプレイヤーたちは、五大神の加護者だと書いていた。俺が時の神アルト・メディオエーヴォの加護者に移ったら、プレイヤーではなくなるのではないか?


 そう聞くと、居候のヤツは爆弾を落としてきた。

 ――――うーん、僕はよく知らないけど、リリスが言ったことだし。たぶん、誰かの〝眷属〟になるんじゃないかな? あ、でも、リリスの加護者はもう〝眷属〟埋まっていたから、他の人の〝眷属〟だねえ。


 それは大変なことだ。今のままだと、誰かの支配下に下ると言うことだ。しかも、樋代じゃない誰かの、支配下。それは嫌だ。俺はアイツの信者だ。アイツ以外の支配下にはなりたくない、絶対。そして、俺は心に決めたのである。一人で強くなり、その運命を変えてやろうと。このままじゃ嫌ならば変えてしまおうと。


 今まで無能力者のラインでも、人を救った英雄はいる。もちろん英雄にまでなれるとは思っていないが、ラインでもできるなら俺にもそこそこはいけるんじゃないだろうかと。

 だが怪我人が外を駆け回るなんて事態を病院側が許してくれるはずもなく、仕方なく病室で体操からでんぐり返しまでしている。暇なんだよ、病院生活。


 そんな、あまりよろしくない状況の中、この前寝る直前にアレイルは言った。

 ――――ああ、プレイヤー同士は誰がプレイヤーか知らされてないからね。君の愛しの愛佳ちゃんに言おうとも言わなくとも自由だよ。

 知ってくれた方がよかった。自分からはなんだか言いにくい。リリス・サイナーだって判明したのもあり、何日か会ってないのもあり、気まずい。



「そう言えばさ、アレイル」

 ――――何?

「アイツが今何してるか、分かるか?」

 ――――分かるけど…………、教えてほしいの? 面倒くさいよ。

「補助しろよ。加護者の願い叶えろよ」

 ――――むーん、なんでそんなに偉そうになっちゃったのかなぁ。まあ、いいけど。むむむ、えい!



 呑気な掛け声と共に、空間が変わる。黒い空間――名前を教えてもらったところ、ヴィオというらしい――になり、映像として現状報告された。

 映ったのはどこかの和室。アイツと凛音、そしてランキングの順位を落とした原因である三年の転入生と、強面の中年がそこにいた。何かを話し合っているようで、音声は聞こえないようになっている。


 アイツと凛音が言い合いになった。というよりも、凛音が一方的に何かを怒鳴っているように見える。正直、意外だ。凛音は温和な印象が強く、今見ているように怒鳴ったりするイメージはない。きっと、アイツが何か逆鱗に触れるようなことを言ったんだろう。アイツ、性格悪いから。


 言い争っている間、転入生のうち一人の黒髪が、アイツを睨んでいる。もう一人の方はその背中にもたれかかって、寝ようとしていた。強面の中年男はアイツと凛音の言い争いをとめようとしているのか、二人の顔を伺っている。アイツは、いつものように笑っていた。

 異状になったのは、その後だ。


 転入生の銀髪が動いた。手には槍。その槍を、アイツに向けている。黒髪がとめようと槍を持った。中年男が動く。凛音が銀髪によって動かされる。黒髪が何かを叫んだ。銀髪の持った槍がアイツの心臓を――貫いた。

 貫かれた槍は通貫していて、背中の後ろに槍の先が見える。


 発狂しないかわりに、空間が激しく揺れた。ヴィオでは声は出せない。持ち主のリリス・サイナーなら出来るが、他者が音を出すことは不可能。そのかわり、空間は使用者の感情に合わせて動くようになっている。

 その映像は、自分には静止画を見せられているように感じた。


 ――――――だが、空間が揺れたのはそれだけじゃなかった。


 貫かれた槍がアイツの体から離されると同時に、アイツの体が青白く光る。その光が意味するのは〝性質〟。リリス・サイナーの信者は忌み嫌っている、本当の超能力。

 リリス・サイナーが我ら唯一の白き神。その神以外から貰った恩恵など、ありはしない。ゆえに体内変化などでオマケとしてついてきた〝性質〟は、忌み嫌うべきものだ。

 確か、そんな理由だった気がする。


 青白く光ったアイツの体は、まるで何もなかったかのように、戻っていた(・・・・・)。それは貫かれた心臓から血に汚れた服まで、全てが、事の起こる前に戻っていたのだ。

 心底溜息を吐いた。まったく、脅かせないでほしい。きっと、何かサイナーを使って命拾いしたのだろう。


 ん? でもそうなると、何に(・・)性質(・・)を使った(・・・・)んだ(・・)


 そう考えた時に、背景が変わる。ヴィオから、病室に戻ったのだ。沈黙する部屋に戻って、手に汗が握る。

 アイツは、サイナーではなく性質を使ったのだろう。サイナーなら何かを呟くが、アイツはそれをしていなかったのだから。

 それならば、使ったのは――〝性質〟。



 まさか――――――――――



 脳裏に浮かんだのは、歴代のリリス・サイナーが手に入れた最強の〝性質〟であり、そのリリス・サイナーが特に凄かったと教科書に載った理由であり、化け物とも言われた理由。アイツが使っていた〝性質〟とまったく同じもの。





 性質名【死にたがり】。寿命が尽きるまで死ねない、不死の力。





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