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リリス・サイナーの追憶  作者: Reght(リト)
第三章 セプリアドゥー・ドゥーウェンの死想
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嘆きの白_Ⅰ




 正体不明から貰ったピアスを握りしめる。その手は震えない。


 部屋の中で大掃除をしていた時だった。それがもう一度、自分の前に出てきたのは。

それは、幼馴染の彼から誕生日に貰った丸型のガラスのケースに、他のプレゼントに埋もれて見えないようになっていたのだ。

 他のプレゼントと言っても、屋敷に住む彼と教育者の人から貰った、今までのアクセサリー類のものしかないけれど。


 空色に似たそのピアスをピアスは二年放置され、そのうち自分の記憶の隅に留められていた。あんなに捨ててほしくないと思っていたのに、何をしていたのだろうか。

 腫れ物のようにそうっと、目の高さに来るまで持ち上げた。


 あの時のように、魅せられる。何に見惚れたのかは自分でも分からないが、あの時見た時別な輝きは無くなっているどころか曇ってすらいない。

 耳朶(みみたぶ)を触った。障害なく、その柔らかいそれには何も付けられていない。


 付けてみようか、と思った。でも、やめた。これはプレゼントされたものじゃないし、髪で覆い隠してもいいが、見つかった時の言い訳がない。見つかって見逃すというのはないだろう。行き成りピアスを付けてきたのだ。穴を開けたのかと言う尋問から始まり、それをどこで手に入れたに辿り着く。絶対だ。


 ケースにそっと入れると同時に、部屋の扉が開いた。終わっているなら広間の掃除を手伝ってほしい、とのこと。見つからないように、ケースの上に白のハンカチを被せて、彼の後ろに着いて行った。


 広間に着くまでの廊下で、教育者の人に会った。彼と自分はケイさんと呼んでいる。日熊恵一郎、のケイらしい。自分は彼が呼び始めたのを真似ただけだ。詳しい理由は知らない。そして、そのケイさんは何か忙しそうにして、自分と彼に広間には行くなと止めに来たのだ。聞くと、客人が来ているらしい。


 この年末に客? ――――非常識すぎるだろ。

 三十一日の今日は誰もが忙しいと、少し考えれば、いや、考えなくても分かるだろう。なのに来るか? でも、ケイさんの慌てようを見る限り、きっと偉い人だ。


「とにかく、挨拶しなさい」

 返事を聞かないうちに、背を向けて歩き出すケイさん。大股で早足なのに、大きな足音はない。


 案内されてきた客間。そこにはあの時のイレギュラーがいた。

 橙色の長髪。神の目と言われる金の目。薄い笑いを張り付けた美貌。


 樋代愛佳と名乗った少女が、そこにいた。





 彼女はケイさんと少し話をしたあと、あの中庭でまた花を愛でていた。あの時も、同じ季節だった。同じ花を愛で、彼女はあの時とは違う、邪気のある笑顔を振りまいていた。彼女は言うには、時間がない、らしい。



「何の?」

「願い事の」

「誰の?」

「君のだよ、白亜ちゃん」



 藤堂白亜(とうどうはくあ)。それは確かに自分の名前だが、何故彼女は知っているのだろう。あの時も、今も、まだ自分は名乗っていない。名乗るつもりもなかった。彼女がどういった存在かも分からないから。



「……誰に?」

「僕に」

「どんな?」

「未来で君が、僕に願うそれまでの時間。その時間が、もう少ない」



 意味が分からない。自分はこの美少女に何かを願った覚えはないし、未来で願うと言われてもピンとこない。それに、何を願うと言うのだ。外に行くと言う〝自由〟以外、何でも与えられる〝二つの槍〟が、何を。

 彼女は眉を下げた。困ったように笑うと、自分の口に人差し指を当てる。



「君に会わせたい人がいるんだ」

 秘密だよ。そう行って、彼女は白夜、と誰かの名前を呼んだ。



 彼女の後ろから、一人の男が出てきた。

身長は自分と同じくらいで、容姿も自分と瓜二つだった。赤と青のオッドアイも同じで、違うのは髪が長いか短いかと言うことぐらい。

 その男は彼女の後ろから動かず、こちらを凝視している。



「…………アンタ、今度は違うやつに不法侵入させたのか」

「ハハッ、そこか。こっちの子について聞くかと思ったのに」

「じゃあ聞くけど、誰?」

 男が彼女の前に来る。彼女はその背中を押し、何かを呟いた。何と言ったかは聞こえなかったが、その時初めて、男が緊張していることに気付く。

「――――――――君の双子のお兄さんだよ」



 彼は自分を藤堂白夜(とうどうびゃくや)と名乗った。さっきとは違った優しい雰囲気に驚く。確かに彼の容姿は自分と似ているが、その、いたのか、兄妹。

 狼狽えていると、微笑んで抱きしめてられた。



「会いたかった」

 彼はそれだけ言うと、何も喋らなくなり、彼女はもういなくなっていて。

「そう……」

 それだけ言って、抱き返した。疑いはしなかった。自分でも分からなかったが、そんな気分は起きなかったのだ。



 彼女がまた姿を現したのは、それから三十分後。

 すると彼の自分から離れていって、軽く手を振って、彼女と一緒にどこかに行ってしまった。また瞬間移動だ。


 バタバタと騒がしい音が聞こえて振り向くと、幼馴染の彼とケイさんが駆け寄ってくる。幼馴染の彼から思いっきり殴られ、ケイさんにはその後頬を摩られながら心配された。何だと言うのだ。

 聞くと、自分は丸一日屋敷からいなくなっていた、とのこと。


 おかしい。自分は、白夜と抱き合っていて、確かに三十分ほどしか経ってないはずだ。屋敷から外に出てないし、心配される覚えもないが、二人の焦った顔を見て、何も言えなくなった。取り敢えず、部屋に隠れていたと言い訳を貫いたが、二人は信じてないだろう。

 別にそれでいい。結局話せないのには変わりないのだから、てきとうに言っておけばいい。本人が言うのだから、迂闊に否定も出来ない。


 部屋に戻ると中は荒らされていた。幼馴染の彼に聞くと、探していたからしょうがないだろう、と逆に怒られた。何を探したんだ。自分がクローゼットに入っているかもしれないと思ったのか。それはまだ分かるが、机の引き出しまで開けているとはどういうことだ。

 そして、目に入ったのは蓋が開けられたままのガラスケース。


 慌てて中を見ると、しまったはずのピアスが無くなっていた。幼馴染の彼を睨むと、睨み返される。彼は服のポケットからピアスと、口から舌を出す。



「返しませんよ。誰から貰ったかは知りませんが、俺とケイさんじゃないことは確か。俺が預かります」

 そう言って出て行った彼の背中を、自分はただ眺めるしかなかった。




 

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