怪異の集まる街_Ⅱ
「――――二千五十七年、地球温暖化による、後に〝神の敢行〟と言われる……」
歴史が始まり、担当教諭である本田克昌の後退しかけた頭が光る。黒板に白色のチョークが走る文字は、歴史でも一番基本。生きていれば五歳で知っているようなことを、詳しく知っていくのが、授業となっている。
歴史は今、千年前にイル・モンド・ディ・ニエンテがチキュウと言われていた時から、今の現状までが範囲。チキュウ、なんて言いやすいんだ。なんだよイル・モンド・ディ・ニエンテって。長い。
そして、違和感。
違和感一つ目、〝チキュウ〟。
左腕が痺れてきた。目が僅かに潤む。ノート取れてる。右手でよかった。
今、先生が語っているのは、〝神の敢行〟についてペチャクチャグチャグチャ。
〝神の敢行〟とは、二千五十七年、世界がまだチキュウだった頃。世界に地球温暖化と言う危機が現われた時、五大神と呼ばれる五柱の神が世界に降りてきたと言うもの。
地球温暖化。口にすればそこまで脅威なのかと思うだろうが、暑くて暑くて燃えるように身が焦げ、もがき続けているのを思うと、そんなことは言えない。
違和感二つ目、五大神。
五大神は、最高神リリス・サイナーを含めた、世界を救った力の最も強い神の集まりだとか。
〝異〟を司る最高神――リリス・サイナー。
〝陽〟を司る神――アレイル・レートシンス。
〝陰〟を司る神――レイメル・オーギュスト。
〝死〟を司る神――セプリアドゥー・ドゥーウェン
〝癒〟を司る神――コンライト・アモーレ。
中でも、最高神リリス・サイナーへの信仰は格段に高い。
「リリス」は女王の意。「サイナー」も超能力者、または異能の意で、これも違和感の一つ。
〝神の敢行〟が終わり、千五十七年の終わり、千五十八年の始まりにかけて、人類の変化が起きた。
神の影響を受けたかのように、異能が目覚め始めたのだ。突如現れた「力」に、化物の力と忌む者もいれば、神の力と歓喜に狂う者までいた。その力を持つものをサイナーと呼び、持たないものをライン
呼ぶようになった。そして、その現象は後から〝サイナー現象〟と名付けられる。
犯罪は増え、力に目覚めなかった人間への差別。
神への信仰心への強化、この学校の名前のように、神を愛し始めた結果。
愛しい神と書いて愛神市。
愛神市は特に神への信仰心が強く、学校の中庭には聖リリス女神の像があるほど。
違和感はまだ続く。
2013/01/13 文章追加