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リリス・サイナーの追憶  作者: Reght(リト)
第三章 セプリアドゥー・ドゥーウェンの死想
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腐敗世界用絶対君主の現状_Ⅱ



 〝自殺実験〟の内容を何にしようか悩んでいたら、四時間はあっというまに終わった。ロープで首を吊って縊死(いし)。毒を飲んで服毒死。事故に見せかけた轢死。風呂場でどうにか感電死。零度の地獄を一ヶ月で凍死。どれもいいけど、やっぱり首切って死んだ方が早いよね?


 エレジィゲームの話題で賑やかな教室を見渡す。誰も、何故、とか疑問に思わない。だって、リリス・サイナーが主催だから。頭の中で勝手に理由があるのだろうと思い込む。それが間違いなんて知らない。知っていたら、いや、もしかしたら、知っていても、この世の人間であるかぎり、泣き叫ぶなんてしないだろう。


 だって、そういう世界で、そういう人類だから。

 一言で終わってしまう理解不明な場面に、自分が慣れてしまっているのも、なんだがムカつく。今度悠馬のお見舞いに行こう。そして八つ当たりしよう。


 何か理由があるのだろうと言う考えはきっとあっているが、本当に理由なんてない時にも同じ考えで済ませてしまうのは、宝の持ち腐れならぬ頭の持ち腐れだ。死者に与えてやれ。蘇るわけではないが。


 チキュウだったころからまた小さくなった携帯を出し、前島さんとメールアドレスを交換。そのあと写真を送ってもらった。

 神器の写真は、全部で三つ。これ全部は中央図書館にあるのが確定しているものらしい。



「いやあ、すまないねえ」

「いえいえ、何に使うかは知りませんが……お役にたてるなら」

「ふ、ふふふ、ふふふふふッ!」

「うふふふふ…………」



 何これ超怪しい。

 きっと前島さんは本当に嬉しくて笑ったのだろうが、こっちは詐欺師が太い金づるを騙しきった時の笑いだ。この不気味さは信者にとってどんな風に見えているのだろう。天使の笑みか。僕は神だけど。


 笑顔のままで前島さんが友達のところへ行くと、携帯画面に映った神器を見る。


 一つ目はペンダントの形をした神器。大きなルビーの宝石を飾った派手なもの。

 二つ目は腕輪の形をした二つでセットの神器。透けて見える水色のもの。

 三つ目はピアスの形をした神器。紫色のマグネットピアスだ。


 ペンダントは空間変化。腕輪は遠くにいる人への意志疎通。ピアスは一時だけ時間をとめることの出来る神器だ。

 結構有名なもので、教科書にも載っている。


 教科書に載っているとなると、早く何か予防しないと、もう神器を集めだしているかもしれない。

 中央図書館は警固されているが、下っ端とは言え、神に直接加護を貰っている秋名には、ただのサイナーじゃ到底敵わないだろう。神はそれだけ、この世界の中心であり、この世界では偉大だ。



 携帯を治して、ドアのところで待っていた凛音へ歩み寄った。

「今日はどこで話すかね」

「資料室は使っているらしいぞ。音楽室に行こう」

「ん、そだねえ」



 それが役目と言わんばかりに揺れているツインテールを見ながら、凛音の後ろを着いていく。凛音があまりにも背筋を伸ばしキリッとしているためか、前を歩こうとは思わなかった。


 家庭科室と調理室の奥にある音楽室は、基本自由に出入りできることになっているが、生徒は授業以外で入っているのを見たことがない。二年になってからは僕と凛音が使っているのもあるだろうが、一年の時でもそれは違いなかった。


 いつもの静かな空間に知れずに肩を落とす。今日は疲れた。今日はまだ終わっていないが、午前中にうちに三日分くらいの疲れが一気に凝縮された感じだ。本当にそうなったら、もう家に帰っているだろうが。



「愛佳、エレジィゲームのことだが」

「ああ、うん、そう。ゲームのことだよ。意識がちょっと逝って(とんで)た」

「大丈夫か? 疲れただろう? 保健室で話すか?」

「聞かれないためにここに来て話しているんだろう。保健室じゃ意味ないじゃないか」

「まぁ、そうなんだが……。無理してまで話すようなことではないと思うぞ? 皆が混乱してすでに殺し合いを始めているならともかく」

「残念ながら似たようなことが起きたよ」

「――――――何?」



 途端に表情を歪める凛音。この子はまっすぐすぎるから、この世界にどうも馴染めない。それはチキュウの時の常識を知っているから、いいことなのだろう。だが、この子もあのニヤニヤ神に振り回されているのだと思うと、腹が立ってくる。うーん、悠馬の見舞いは今日行こうかな?

 それはさておき。



「三時間目の理科の時間。一人殺されたよ。あのリリス・サイナーサマが許してクダサッタノダカラーとか言いながら。意味不明な男子が、女子を一人、ね」

「……………………」



 凛音が沈黙したのは、僕の敬語が棒読みだからだろうか。それとも起こった事件に対してだろうか。この子なら後者だろう。僕の過去を知っている分、死に敏感だ。


 考え中のポーズをしていた凛音は、音楽室のイスを一つ、僕の後ろに持ってくる。流されるままに座り、凛音も近くにあったイスに座った。そしてまた何か考えている。このためにわざわざ動いたのか。律儀というかなんというか。流石昔から僕の傍にいるだけあるよね。


 思考を覗こうと思えば見られるが、それは凛音が言いにくそうに口を閉ざしているのが無駄になる。結局言うだろうが、あまり人の思考を邪魔するのもどうかと思うので、放っておく。どうせ見てもいいことないしね。これが本音とか関係ないし。

 って、思っていたんだけど、もういいよね、聞いても。なんか考え時間長いよ。僕を待たせるなんて何様のつもりだろう。凛音様か。あんまりしっくりこないね。



「何か言ったらどうだい」

「じゃあ、そのこと、詳しく教えてくれ」

「なんのことかな」

「一人死んだとか言っていただろう」

「なんのことかな」

「…………愛佳、拗ねるのは後にしてくれ。今は真面目な話をしているんだから……」

「なんのことかな」

「後でチョコやるから」

「………………………………………………………」



 君は僕をなんだと思っているんだい。君だけじゃなくて奏多くんもだけど、僕を人間じゃない何かで見ているんじゃないかな。神様とか。僕様とか。とにかく、高位の人外っぽいものに。高位なのは絶対。

 あ、でも、神様でも僕様でも天使様でも、チョコは関係ないか。



「その男子と女子が手紙交換していたんだけど、先生に見つかったら責任の擦り合いになって、男子の方がキレて女子を丸焼き。豚じゃないのが惜しいね」

「不謹慎だぞ、愛佳」



 睨みながら言ってきた。凛音が僕相手に強気で言ってくるのは、なんと、珍しい、……よね、多分。今までそんなになかった気がする。あったのは前世だから懐かしい気分しかしない。ごめんよ、怖くないさ。

 あと、チョコ欲しさに言ったわけじゃないから、出そうとしなくていいよ。


 それにしても、情報が少ないのには変わりないようだ。凛音もあまり詳しくは知らないようだし、周りの生徒もそう変わりない。殺し合いがあるのはいつものことだし、だからと言って変わってしまえと思っているわけでもないけど。


 ここに来て、悠馬の存在理由が一つ見つかった。いや、存在理由がないわけじゃないけど、悠馬はこんなところでも役に立っていたというわけで。僕は何に言い訳しているんだろう?



「情報が集まるところに行きたいな。人が集まれば自然と情報も集まるが……」

「うえー、人だかりのあるところ行くのかい?」

「我儘言うなら、違う場所を見つけろ」



 人が集まるようなところではなく、しかし情報の集まる、それは便利なところ。そんな使えそうなところがあるなら、とっくに行っているよ。

 ――――あー、力使うか。人だかり絶対疲れるし。



「<探索(cercatore)>」



 小さく呟くが、凛音には聞こえていたようで、呆れて溜息を吐いている。

 頭の中がかき乱される。記憶の隅から隅を力でかき集め、それを中から探していく。――――ひとつヒットした。まあまあいいところだけど、凛音は入れるかな?



「凛音」

「なんだ」

「今日の放課後」

「ああ」

「日熊家行こうか」

「そうだな。――――は? 日熊? 〝二つの槍〟の?」

「うん」

「…………」

「うん」




 放課後の予定が決定されましたー。




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