エレジィゲーム_Ⅲ
外は闇に包まれていた。
静寂が占め、音という音といえば小さな風の音のみ。しんとした空気を壊す邪魔者はいない、静かな夜。闇にも気品があった。
愛佳は寝つけず、月明かりを見ていた。
満月ではなく三日月だが、明るさは同じと言っていいくらい明るい。その三日月をも隠す雲が表れても、自身の力で跳ね除けていた。
――――今、見ているものを曇らせたくなかったのだ。
今日の昼。学校を早退してまで、親友の恨みまで買って助けた彼は、今何をしているだろうか。そう思ってから、短い溜息を吐く。
(もう寝ている時間じゃないか)
そもそも起きていることが珍しいのに、何を決まりきったことを。
十一時をすぎ、もうあと何分かで日が変わる。
部屋にかけている白の時計と、枕の隣の目覚まし時計を交互に見た。時間の狂い、一切なし。
そして、その長針が丁度零時を刺した時、それは起こった。
けたたましいその音は、目覚まし時計のアラーム音ではなく、緊急を表す市の警告音でもなかった。
味覚や触覚と嗅覚はさておき、聴覚でも視覚ない、どこからか発せられた〝音〟。第六感目に響く止めようのない〝音〟。
壁の向こうで煩い叫び声が聞こえる。隣は蜜音の部屋だ。きっと、蜜音もこの意味の不明な頭痛と大きな音に悩まされているのだろう。
だが、〝音〟が出した変化はそれだけではない。
窓の外、静かな闇を作っていた夜が、かき消される。
自分や蜜音だけではなく、どこ家でも変化があったのか、今まで見えなかった明かりが次々と出てくる。
その〝音〟は、多彩な〝音〟となり――――声となって、頭の中に入ってきた。
【 こんにち _| 】
【 こんにちは、 __| 】
【 サイナー 諸君 ___ | 】
【 お休 _| 】
【 お休み の ところ __| 】
【 お休み の ところ すまない ね、 ___ | 】
脳に直接入ってくる文字の羅刹。言い表せない不快感。苦しい訳でもないのに、胸あたりの服を握った。まだ続く羅刹に、嫌な予感がとまらない。
【 これより _ | 】
【 サイナー のみ に よる __| 】
【 サイナー のみ に よる ゲーム を 始める ___| 】
【 今宵 より、 __| 】
【 エレジィゲーム を 始める ___| 】




