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リリス・サイナーの追憶  作者: Reght(リト)
第二章 二つの槍、エレジィゲーム
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エレジィゲーム_Ⅱ




 わけが分からない。


 最初会った時に殴ったあげく貶してきたくせに、今はわざわざ助けに来て、木嶋との口論も庇ってくれた。本人があからさまに行動してないためか分かりにくいが、リリス・サイナーがわざわざ来てまでやったことと言えば、それと反女王派の撃退ぐらいだ。


 反女王派の撃退だけなら、リリス・サイナーの力を使えば、足を運ばなくても合図一つで可能だ。そもそも、撃退の理由も結局自分を助けることになる。


 確かに〝二つの槍〟がリリス・サイナーも困るは困るだろう。有能で使役するために教育され、期待していた人材が離れていくのだから。

 でも、それだけだ。


 別に〝二つの槍〟がなくとも、リリス・サイナーの力は万能だ。どんな願いでも、加護を受けやっているリリス・サイナー本人の介入がなければ、敵うのだから。


 佐藤さんと後藤さん河本さんの三人と、彼女と純血の子に、純血が連れてきた木嶋の娘と茶髪の子。その七人と自分が残された半壊の裁判室で、俺は思考に耽っている。


 飄々としていて、ポーカーフェイスに狂気を塗ったあの笑みに、口から出る軽い言葉。第一印象は「捻くれている」と思っていたのだが、これはもう狂っている時点だ。それでいて、嘘に塗りたくるのではなく、狂気を隠そうとしていていない。自分に正直だから、余計たちが悪い。


 河本さんは彼女へ言葉をかけて、他の中年の二人とは早々と帰って行った。制度の件は、無になるだろうとも言っていた。それは助かる。

 三人が出て行ったあと、まったく動こうとしない彼女に、目を向けた。


 精密に作られたビクスドールのような美貌は、反女王派の闖入者たちが去って行った方向をじっと見ている。やはり、捻くれて狂ってはいても、親友が裏切ったのはショックなのだろうか。


 自分と同じように彼女を見ていた純血の子も、しばらくするとサイナーの力か性質かは知らないが、帰って行った。


 木嶋の娘――木嶋塔子は、歪な狐面と共に去って行った父親に茫然としたまま、動いていなかったが、茶髪の子に話しかけられると、何かを呟きながら出て行った。


 部屋に残ったのは、自分と彼女のみとなった。

 彼女もそろそろ見るのに飽きたのか、一つだけ溜息を吐くと、無くなったドアの方向でもある、俺に振り向く。



「さて、僕は帰るけど。君はどうする?」

 帰るにきまっている。だが、ただでは帰らない。

「送ります」



 俺がそう言うと、彼女は偽りの薄い笑みを消す。その目にあるのは微かな期待と、大きな落胆。正直なのはいいが、正直すぎるのもイラつくと言うものだ。

 きっと、彼女は俺の意志を悟ったのだろう。



「もうちょっと捻ったらどうかな。直球すぎてつまらないよ」

「では還りましょうか」

「どこに逝くの。家が死者だらけになるのは御免だよ」

「では孵りましょう」

「ムム……」



 からかえないと思ったのかつまらなさそうに眉を下げる。孵化には突っ込まないのか。むしろ突っ込んでくれた方が嬉しかった。

 先に彼女に歩かせ、後ろから着いていく。


 半壊した部屋は放っておいていいのか?

 ――――まぁ、自分には関係ないか。


 いまだ冷たい風にふかれ、彼女の髪が揺れる。橙色の髪は、人体変化されたいろいろある色彩の中でも、綺麗だ。

 国を傾かせる傾国ならぬ、世界を動かすその美貌に、思わず見惚れた。



「君が聞きたいのはどうして助けに来たかとか、何故助けに来たとか、そんなところだろう」

「どうしてと何故しか変わってませんけど、まあ、そうですね」



 この人、本気でボケているのかわざとなのか分かりにくいから、反応しにくい。リアクションするつもりもないけど、なんかモヤモヤする。気持ち悪い。



「別に君を助けたわけじゃないよ。こうなること(・・・・・・)が決まっていたのだから、気にする必要もない」

「決まっていた……全部?」

「そう。君が助けを求めることも、秋名が裏切ることも、僕が夏名を殺したことも、全部決まっていたことだ。決めたのがあのニヤニヤ神っていうのが気に入らないけどね」



 ニヤニヤ神と言うのは、リリス・サイナーのことだろうか。罰当たるぞ。加護者だからないのか? ――――それにしても、リリス・サイナーのことが嫌いなのか。


 加護を貰った者が加護を受けやる神を恨むのは、前代未聞だ。力はあって感謝ことすれ、恨むなどない。それが、リリス・サイナーの力となれば尚更だ。

 ――――リリス・サイナーの力は、誰の支配も受けず、誰よりも強い、それこそ神そのもののような力なのだから。



「君の質問って、それだけかい?」

「――わざわざ足を運んだのも、それが決まっているからですか?」

「まぁ、そうだね」

「それは助けてもらったと考えても?」

「ご自由にどうぞ。君の認識もどうでもいいや」



 僕とって君はそれくらい(・・・・・)の存在なんだよ。

 淡々と言ったその言葉には、そう言った皮肉も込められている。挑発的に笑う彼女は、美しい。



「ここまででいい。送るのも話をするための口実だろう?」



 疑問符がつきながら確信しているその口調に、何も言えなくなった。自分は進んでそんなことをする善人じゃないと言われた感覚だが、実際そうだ。

 背を向けて横断歩道を渡る彼女は、少し寂しそうにも見えた。



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