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リリス・サイナーの追憶  作者: Reght(リト)
第二章 二つの槍、エレジィゲーム
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エレジィゲーム_Ⅰ



「とは言え、ね。僕も今回は早め終わらせたいんだよね。――七時にあるテレビ見たいんだ。それまでに宿題と予習やらないとね。僕、一応学校休んでいるわけだし?」



 いつものように張り付けた薄笑いで言った愛佳に、思わずこけそうになった。いや、本当にこけるわけではないが。


 今から殺し合いが始まると言ったのは自分なのに、まるでない緊張感。テレビがみたいなどと。別に録画すればよかったじゃないか。予習も教科書みてすぐ終わるくせに。

 自分の親友はどこか抜けている。



「凛音、それ、君に言われたくないよ」

「何故だ? わたしのどこが抜けていると言うのだ」

「裁判に乱入したり他校生無理矢理連れて来たり大人殴ったりするのをとりあえずで済ますところとか、同意しているくせに初対面の男を投げ飛ばしたりしたことに覚えはないかい?」

「あるな! ――でも、それのどこが抜けていると言うのだ」

「そういうところが面倒くさいよね、君」



 ヤレヤレと溜息をつくと、目線を逸らす黒髪と木嶋塔子に愛佳。何があったんだ。敵である木嶋隆由は怒りに震えており、狐面は相も変わらず面で顔は見えないが、きっと無表情なのだろう。



「まぁ冗談はそこまでにしておいて。面倒くさいから早く終わらせたいっていうのは本当なんだよね。ノコノコ現れたんだ。何か最終兵器的なもの早く持ってきたまえ」

「どれだけてきとうなんだ」



 最終兵器はピンチになった時にいざっ、と出すものだぞ。狐面にとってはもしかしたらピンチになるのかもしれないが。そこは黙って待ってやったらどうなんだ……。



「君こそ、敵に同情の目を向けるのはどうなんだ」

 ふむ、ばれたか。



 会話には目も呉れず、狐面が静かに右手をあげる。その右手は〝影〟で覆い隠され、一見真っ黒の手袋にしか見えないが、右手をあげると、その右手に纏っていた〝影〟が動き出した。

 それと同時に、まだイスに座って茫然と見ていた緑の目の男子と金髪の二つ結びの子の首が、壊れた人形のようにカタカタを横に動き出す。

カタカタ、カタカタ、カタカタカタカタカタカタ――。


 行き成りの不気味な光景に、顔を赤くした木嶋塔子が、吐き出す。

 その隣で、茶髪の苛められていた女子生徒――そう言えば名前聞いていない――が意識を失った。

 あとの残った中年の三人はどうにか応戦しようとするが、これは神の戦いだ。ただのサイナーが入る隙など、ない。

 最後の黒髪の男子は〝槍〟を構え、来るだろう危機を警戒している。これが〝二つの槍〟か。噂には聞いていたが、あたり強そうにも見えない。強さは運で手に入れたサイナーで決まるので、外見はあまり関係ないが。それでも、頼りない感じだ。


 カタカタ、と揺れていた二人の首がとまる。二人は天井に引き寄せられるようにふらふらしながら立つと、手、首、目、足、頭の順番に、さきほどの木嶋の手のように破裂していく。

 これを、平然として見れるようになったのは、きっと、この世界ではいいことなのだろう。


 破裂したあとの二人の血が〝影〟と混ざり合い、大きな〝影〟の繭が出来る。その繭の真ん中を斬り、同じ〝影〟に包まれ、出てきたのは、ようやく目に馴染み始めた、愛佳の親友であり、わたしの友達。


 ――――忍足秋名が、虚ろな目でこちらを見ていた。


 思わず視線を愛佳へ移す。

 そこには、いつものように薄笑いのポーカーフェイスを浮かべている、自分の親友。愛佳は、こうなることを知っていたのか。

 こうなることを知って、ここに来たのか。そして、親友の裏切りに顔色を一つも変えないのは、薄情なのか、覚悟していたのか。



「やぁ、秋名。随分とやつれているね。その様子じゃ、僕が夏名を殺したことは知っているようだね」



 愛佳がそう言うと、左側に俯き、垂れて目を隠していた前髪の隙間から見えた赤い目(・・・)が、こちらを睥睨する。音にするなら、ギョロリ、といった感じに。



 愛佳が、夏名を殺した。


 ――――――ああ。そうか。


 もう、お前はあちら側(・・・・)か。



「アタシ、今から、アンタに復讐することにしたんだけど」

「そうだね」

「凛音がいるから、やらない」



 秋名が口を開いたと思ったら、思わぬところで名前が出て、小さく驚きの声を出した。

 秋名はそれだけ言うと、汚いものを見るかのように顔を歪め、愛佳を見たあと、狐面になにか一言だけ行って、去って行った。



「おや、てっきり戦うものだと思っていたのだけれども。まあこれでテレビ見れるし、いっか」



 少しつまらないように言う愛佳に、ゾッとした。今まで長く愛佳に付き合ってきたが、こればかりは本気で幻滅(・・)した。


 あのチキュウを知っていたのならば、この世界がどれだけ狂っているのは分かっているのならば、少しは情があると少しは人間らしいと、そう思っていたのに。


 これじゃあ――この世界の人間と同じじゃないか!


 黒髪の男子が〝槍〟を下げ、いつもの笑みを浮かべている愛佳を見る。その目からは不満と不安の表情が見て取れた。


 友が一人裏切り、親友が狂っていることを知り、わたしは、どうしたいのだろう。この世界で、愛佳を生かせ、何がしたかったのだろう。そして、これから何をするつもりなのだろう。自分のことなのに、どこか他人事のように思っているのが、どうにも腹が立つ。


 わたしは性質である【空間変化】を使い、空間を捻じ曲げ、自分の部屋へと帰った。無言で、やはり、何も言わないで帰ってきたのは悪かっただろうか。


 いつもの自分の部屋が寂しく、とても虚しいものに思えた。


 わたしは愛佳側に付くべきなのだろうか。今更、仲の良かった愛佳を自分の中で無いものにはできない。

 それなら、秋名につくべきなのだろうか。この世界が腐敗した理由となるあの神と、愛佳に対する復讐に、手を貸すべきなのだろうか。


 自分の気持ちに整理がつかないまま、時間と共に睡魔に甘え、意識を手放した――。




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