反女王派_Ⅰ
純血の闖入者に、全員が黙っている。
状況が分からないのだろう。実際、自分にも分かっていない。
自身の人生が決まるであろう小さな戦争が敗北寸前となり、最高神が表れて、その神が戦乙女を呼んだ。まるで昔本当に起きたあの戦争だ。纏めるのは簡単だが、そこで何故最高神が現れ、そこで何故戦乙女が来たのか分からない。そりゃそうだ。誰も予想してないのだから、誰も理由を説明することなどできない。
ただ一人だけ、笑っている。
彼女だけが、いつも余裕に笑っているんだ。
彼女――樋代愛佳は予想していたであろうこの事態に、相変わらずの薄笑いですました。不敵の笑みとも思える、その表情を浮かべる彼女は、美しい。
「なんだ、君は! まったく、次から次に邪魔者が来てくれる!」
神の目を持つ彼女を直接相手にしてないためか、いらだった木嶋は、遠回しに彼女を侮辱する。喧嘩をうって、楽しいのか。喧嘩を売った相手を、こいつは理解しているのだろうか。
「木嶋は貴様かぁッッ!」
半ば鬼のような形相を浮かべた川島凛音は、木嶋隆由の腕をつかむと、背負い投げた。――――投げた?
小さなうめき声を出し、一緒に投げられた携帯をほおりだした木嶋は、眉間に皺を寄せる。続いて投げられないと分かると、立ち上がり、抗議を始める。
「いきなり何をするんだ! いったい、君はどういった教育を受けているんだ? 親の顔が見てみた、」
「わたしも同意見だ!」
ならやるな! 叫ばなかったのは、そういう雰囲気ではなかったからだ。
だが、初対面の大人をいきなり投げ飛ばし、揚句に同意見だといいながらもう一度腕を掴もうとする姿には、何も言えなくなる。意味不明な行動をとっている川島凛音の表情は、真顔だ。
「わたしも初対面でいきなり投げるのはどうかと思ったがな、親の顔が見てみたいなどと、同じ言葉を貴様にそのままそっくり返してやりたいものだ! 話は貴様の娘から聞かせてもらったぞ!」
話がつかめない。
何を聞いたんだ。何を聞いてこんな奇行に走った。凄く気になるのだが。それを聞く雰囲気でなことが凄くもどかしい。
「君、中学生かね? 何をしている?」
我に返った河本さんが、場にある空気を読み、皆の気持ちを代弁した。
「わたしは愛神中学校二年、川島凛音だ。この馬鹿者、木嶋隆由の娘がイジメをしているところをたまたま、発見してな。親に突き出してやろうと話を聞いたところ、制度がどうとか煩いからとにかく話を聞きに来た!」
行動派すぎるんじゃないか。河本さんは川島凛音の嘘偽りないだろう、ハッキリとした言葉に唖然としている。無茶苦茶な言動なのだが、正直に言われてしまえば何も言えなく、だが河本さんも小さな裁判の長をするような上の人間だ。冷静を装い、また問う。
「木嶋くんの娘さんがイジメ、と」
「そうだ。この茶髪の子はわたしの知り合いでな。隣にいる木嶋塔子に苛められていると聞いてな。学校から連れてきて親に出し、話を聞こうとどこにいるか聞き出したら、制度を作るとかどうとか言って家にいないと言った。娘を真面に育てられない親が秩序の一つとなる制度を作るなど、まったくふざけた話だ! 真正面から一言言わせてもらおうと来た」
一言どころか一発くらわせていますけど。
知り合いと言われた茶髪の子は、困惑した顔で場をキョロキョロと見ているだけで、何も言わない。否定もしないし、川島凛音の行動に後押しもしていない。険しい表情の金髪の子が木嶋の娘だろう。確かに、剣のある性格しているようだ。
「ところで何の制度だ!」
「孤児育成制度だよ。まったく、少しは考えて行動したまえ」
「孤児育成制度だな、よし、反対だ」
「君に発言権ないけどね」
河本さんの胸倉を掴もうとする川島凛音に、斉藤さんがとめる。
場がおかしくなってきた。今まで制度賛成派であり木嶋だったが、今は命令を送る手元に携帯はないし、もう切り札はないだろう。もし、川島凛音の言葉が本当で、木嶋の娘がイジメをしているならば、制度の否決もこちらのものだ。
だが、本当にそれで終わるのだろうか。
もしそれで終わるのなら、樋代愛佳は何故わざわざ来たのか。リリス・サイナーは未来を見る力だって、作り出すことができる。
川島凛音がここに来ることを知っていたのだろう。自分が来なくても、裁判をとめるのが目的なら、川島凛音で全てが解決するのに、何故。資料を見せるためだろうか。それでも、納得できない。
「ふざけるなよ、ガキがぁあああ!!」
まるで獣の咆哮。
叫びながら自身のサイナーを使おうと、木嶋の手が延ばされたのは――――自分だ。
時間がないので文章荒いです。




