神により快楽に酔う、_Ⅰ
三人称やっぱ無理っぽいです。
不敵に笑った彼女は、自分の長髪をいじくりながら、俺の肩を叩くと、イスを取られた。足を組んで偉そうに座る彼女に、ようやく我を取り戻した木嶋が、相変わらずの厭味ったらしい顔で彼女――樋代愛佳を睨みつけている。
だが、それだけだ。
いくら祝福の子であり〝二つの槍〟でもある自分を馬鹿にしたと言えど、信仰対象にある神の目を持つ彼女に失礼を働いたのなら、信者の例外でないだろう審判の河本さんを敵にするのは得策じゃないだろう。というか、その時点で勝負が決まってしまう。
「――――今は会議中なのだがね。部外者は出て行ってもらいたい」
「その会議中に用があるから今ここにいるんだろう。会議が終わったら意味がないじゃないか、クズ」
樋代愛佳のあからさまに見下した言葉に、木嶋は机の下で手をきつく握っていた。
彼女は飄々とした笑みを浮かべて、頬杖を突き、――――口論を、始める。
「いやね、孤児育成制度ねぇ――。ふーん?」
俺のところに置かれていた資料――他の人にはなかったページ、あのクラスメイトの写真が貼られているページを含めて、全てを見ると、彼女は資料を投げ捨てた。
「ふざけるなよ」
背筋が凍る笑み。彼女は、心の底からどうでもいいものを見る目で木嶋を一目し、溜息を吐いた。ゴンッ、と大きな音。樋代愛佳が、机の下から、木嶋の机を蹴っている。今も、何度でも。
「なに、善人ぶったつもりかい? 殺される子供が多いからって? ふざけんなよ偽善者が。口先だけのクズゴミ」
「なっ――――……」
「ああ、本当にゴミだね、君。孤児を戻すって、その孤児でまた問題が起きたらどうする? 君に責任取れるかい? その孤児でも被害がでたら? 人が殺されるのが普通なこの世界で、制度なんてものは普通影響ないものだし、そもそも本当にこの制度を作るのが得策と思っているのかい」
「――ああ、本当だとも! 悲しい運命に殺される子供は少ない方がいいだろう? いくら全てを止められないとしても、全国的に制度として決行すれば、被害は減る。今にも怯えている子供たちは沢山いるのだから」
「君がそれを言える口かね」
彼女は、投げ捨てた資料の内の一つを広い、審判である河本さんに渡した。
まさか。そう思うがもう遅い。
河本さんの顔が驚愕に変わる。やはり、あの写真だ。クラスメイトの写真。それでも、驚いているということは、河本さんはグルじゃなかったのか。そうなると、自分は相手の手のひらで踊っていたのだ。悔しさが目に滲む。
「君が犯した罪は三つ。一つ、無害な子供に暴行を加えたこと。二つ、今も無害な子供に脅迫材料を見せ、貶めようとしたこと。三つ、――」
彼女は一度黙ると、なんだと思う、と木嶋に問う。木嶋は眉を顰めるだけで、何も言わず、無言を通す。机の下で携帯が開かれている。――あの子は、殺されるのか。
転入して来て優しくしてくれた男子生徒の柔和な笑顔がよぎる。なんだって、こんなことが許されるのか。
携帯を取り上げよう。手を伸ばした時、彼女はようやく続きを口にした。
「三つ。――――君が実に滑稽で愚かなことだ」
静まる室内。
固まった自分と、彼女以外の人たち。
激しい足音。
そして、大声。
「ドアは無いが失礼するぞ! 木嶋隆由という馬鹿者はいるか!」
純血のツインテールが揺れる。きつく細められた黒目。右手には光聖歌学校の制服を着た茶髪の女の子。左手には同じく光聖歌の生徒で、金髪の険しい表情をした女の子。
資料で見た。今代の、リリス・サイナーの友人だと。
純血――黒髪黒目の復讐者、川島凛音はそこにいた。
樋代愛佳は、待ってましたと笑っていたのだが、この時、背を向けていた俺は気付いていない。




