女神のようだと誰かが言った_Ⅱ
三人称に変えました。
――――つまらないねぇ。
頬杖をつき、愛佳は憂鬱に溜息を吐いた。
真っ暗な空間の中で、目の前に流れている現状のノイズ。ざざっと音を立てて行った一つのノイズは、今まで自身の友人を三人映していたものだ。
今まであった真っ赤なノイズは跡形もなく消え、代わりに新しいノイズがどこからか生まれてくる。
最初にうつったのは、学校。光聖歌中学校。愛神市の西にある、愛神中学校に次ぐ進学校である。
学校を囲む木々が蠢き、道の隅に生えている雑草が伸び始め、純血の足元に集まる。勢いのある跳躍の後は、学校の正面玄関へ一直線している。
(あー、やれやれ。我ながら凄い親友を持ったものだねぇ)
愛佳は相変わらずのポーカーフェイスで、内心ニヤニヤしていた。瞬時に集めた緑の力に、その後の跳躍で見られる運動神経。
この真っ暗な空間――ヴィオでは、今女王としての力「<展開>」を使って、友人たちの現状を探っていた。
今まで愛佳が見ていたのは、悠馬、秋名、夏名の三人が過去を見に行こうとして、妨害による失敗を起こしたところ。その妨害は、きっとあの狐面――ディエニーゴ・コンテンデレだろう。
そして、今愛佳が見ているのは、前世からの親友である凛音の行動だ。
強化された肉体を活用して、誰にも見つからずに正面玄関から入れたのは、光聖歌の生徒の視力が凛音のスピードに追い付けなかったからだろう。
凛音がそのまま隠れもせずに向かったのは、かつて自分が通っていた一年二組の教室。
ガラッ、とドアを開けた凛音の黒い目には、驚いて行動することをやめた光聖歌の生徒たち。
驚く。当たり前だ。
世界の中心と言われる愛神市。その都市に入るだけでどれだけの努力とどれだけの家柄が必要か。神童と呼ばれた児童が死にもの狂いで勉強しても、面接の時点で落ちたとも言われた、愛神中学校。その制服を着た、しかも純血がいきなり自分達の教室に乗り込んできたと言うのだ。
(いやはや、豪快だねぇ。しっかりしてるんだか、行動力があるだけなのか、それともただの馬鹿なのか。全部かなぁ)
その行動に笑ったのは、愛佳のみだ。
愛佳がケタケタ笑っている間に、ノイズの中の凛音は、教室の真ん中で虐げられていたであろう生徒の前まで堂々と侵入した。
その生徒は大きく目を見開いて固まり、意味がわかないとアンタは誰だと近くで喚いているのは主犯の木嶋塔子だ。
凛音が木嶋塔子と、驚いて固まっているその生徒の腕を掴んで教室を出たところで、そのノイズも消えて行った。
(面倒くさいなぁ。面倒くさいなぁ。面倒くさいなぁ。でも、ほおっておくともっと面倒くさいなぁ)
ノイズが消え終わると同時に、黒い空間だった場所――ヴィオも消えて行った。感触の無かった空間から、その足は自身の部屋である白い場所へと変わる。
圧迫感のあるその部屋に立っていた愛佳は、右手を翳すと、その場に赤い唐傘を出す。開いて肩にかけると同時に服も、馴染みかけている白装束へと変わった。
(さて、どこかな)
再度右手を翳すと、小さな地図のようなものが出てくる。
(結構遠いねぇ)
芝居がかった風に肩を落とし、わざと落胆しているように見せた。この行動に、愛佳本人は何か理由があるわけではないが、それが癖となっている。
その場で一回飛ぶ。次に目の前現れたのは、中央図書館の裏にある小さな事務所の前。瞬間移動。なんて便利なんだ。それで、ここに子供三人と糞野郎がいるのかな。
(面倒くさいなぁ)
再度そう思いながら、右手を翳して、その事務所のドアを吹き飛ばした。
舞い上がる埃と煙に目を瞑りながら、愛佳はふと思う。
(面倒くさいなら、なかったことにすればいいのに……。それなら、なんで、僕はここにいるんだろうね?)
愛佳は、まだその感情を識らない。
瞬間移動とか、町全体見るとか、地図出すとか。
だって、チートだもん。ねぇ?




