樋代愛佳というヒト科についての記述_Ⅲ
黄色の混じった橙色の髪は、結んでいると膝裏まであって、ゴムを取るとギリギリ地面につかないくらいの長さがある。サラサラ、というよりツヤツヤ、のほうが正しいと思う。長くて鬱陶しいとは思わないが、一度秋名のように短くしてもいいかもしれない。
薄ら桃色のついた頬、形のいい唇はいつも自慢げに三日月に歪められていた。
そして、それら全てを引き立て役にした金色のネコ目。
全てを魅せられる目に、まるで神様の作った最高傑作だと、誰かが言ったことがあった。
否定はしない。自覚している。
自分にはそれほどの美貌があり、それほど人を魅せる目を持っている。
成績は完全記憶能力のおかげで全教科満点。覚えていても理解しないといけないため、流石に少しも勉強しないと言うわけにはいかないが、それでも習慣になっている復習が苦だとは思わない。
運動神経だけを極めれば文武両道と称えられ、凄いねと言われ慕われる。何が凄いのか正直分からなかったが、とりあえず曖昧に笑っておけば人気者になり。
文字を読むように大学の問題を解けば、神の最高傑作だなんて崇められたこともあった。
意味がわからない。
でも、意味が分からなく、変わり切って、腐りきって、それでも生き続けているのが世界のリンネ。
何も考えない、ただ生きている。そして、廻っている
それが、この世界――――〈イル・モンド・ディ・ニエンテ〉での普通。
そして何より、樋代愛佳という全て。
「愛佳?」
秋名に声をかけられ、我を取り戻す。
えらい真剣な顔をしていたのか、秋名と越智くんも驚いたような、半分惚けたような顔をしてこちらを見ていた。また、曖昧に笑っておく。
それよりも、私はその隣の〝ある光景〟を見て、少し顔が引きつった。
――――嗚呼、不快感。違和感。既視感。
「なんでもないさ」
ダウト。心の中で呟いておく。
あまりにも自然に、それはそこにあった。
あまりにも不自然に、それはそこにあった。
ねぇ、皆。期待してないけどさ?
教室の隅に、
――――死体なんてものがあっても、無反応って何なんだい?
2013/01/13 文章追加