忘却の果てに_Ⅲ
手首に作った傷を見るたびに、わたしも彼女と同じ苦しみを味わった幻覚が起きる。
一時とは言え、彼女と同じ死にたがりとなったことに誇りを持つわたしの神経はきっと狂っているのだろう。
だけど気にしていたらこの腐った世界では生きていけない。
世界が腐っている。人も腐っている。土地も腐っている。
なら何が残ると言うのだ。というか、腐っている世界に腐っている人間がいて何がおかしいと思うのだ。
だって、人を殺しても何も思わない世界。そのくせ、傷付く感情は持っている。
だって、それが当たり前となってる世界。絶望はあるくせに、希望の一欠けらはない。
それなら、と。それなら、この憎悪の感情すら、この世界では当たり前になるのか。この世界の人間と同類になってしまうのだろう。
結局、わたしは正解を知らない。
結局、この答えは作られていない。
結局、この世界はそれすらも放棄された腐敗の世界。
そもそも、わたしが殺された世界――チキュウさえも、正しい人間ばかりいたかと質問されれば、あの世界ならいいのかと聞かれれば、わたしは何も言えなくなるだろう。
だって、思えばあの時代でさえ犯罪はふえ、人々の心は腐っている。
でも、あれすらも腐敗していると言うのなら、正しいのは何か。
争いがなければ人類ではない。
欲がなければ人ではない。
それでも、神が敢行したあの環境問題がなくても、人がここまで腐敗したのだろう。
目の前には過去に自分にが通っていた光聖歌中学校の門がわたしを見下していた。侵入するわけにもいかず、だが中の様子が気になる。
今更わたしのことを覚えているか確認しに行くわけではない。ただ、一人だけ見ておきたい人間がいた。
木嶋塔子――わたしを苛めていた主犯である。
わたしだけならいいだろう。
だが、あのタイプは永遠といじめを繰り返すだろう。憶測が、ほとんど確信に近いものになっている。
そして、わたしが今対面している問題は二つだ。
一つは、復讐の有無。
もう一つは、その復讐をどうやってするかどうかだった。
今はもう着慣れている愛神の制服を見に纏い、一回だけ深呼吸すると、蔓を使って門の向こうに着地した。
こうして、復讐劇が始まろうとしていた。




