忘却の果てに_Ⅱ
頭の中でイメージに全集中を傾ける。
イメージは最初何もない暗い空間なら始まり、最初に土の焼ける臭いから始まり、太陽が明るく照らし、月がそれを引き立たせ、火が全てを包む。その空間に混沌を迎える水が吹き上がり、暴れ、植物の糧となり、光に影と二律背反を生んだ。
何かに吸い取られるように意識が理性へと変化すると、映像が頭の中で竜巻を起こすと、全てはなかったかのように無くなっていった。
周りは暗く、光がない。ただの思考の海がそこにはあった。
意識を取り戻して初めに戻ってきたのは触覚。何もないが、冷たいと感じる。感触があるのに、それは形となっていない、ただ空間。
次に取り戻すのは視覚。その次は聴覚。嗅覚を取り戻したところで、自分の置かれている状況にようやく整理がついた。味覚は戻っているのだろう。口の中のしょっぱくなった唾液を飲み込んだ。
その空間には、三人。自分と忍足と女顔のアイツ。
「ここは……」
疑問符を忘れた呟きは忍足秋名のもので、説明役である自分も、心の中は驚きでいっぱいだった。
「これが時の空間。時間を選ぶことができる、唯一の空間だ。思い浮かべれば、知りたい時間に行ける」
そう説明したが、二人はまだ半信半疑の表情を崩さなかった。当たり前だ。やった自分でさえ、実際来たのは初めてだったのだから。
こうなったのは、考えても答えの浮かばない記憶の不快感に、相変わらず悩まされていた時、――三年に転入生が来たとの日、その放課後のこと。
なんとも言えない表情で自分を見ていた忍足夏名の視線を、俺はずっと気にかけていた。言いずらそうな、そんな表情をさせる意味が分からなかったため、聞いたところ、解決の糸口を俺に言わせたかったらしい。
悩まされていた事件の解決の糸口は、俺自身のサイナー、時の力を使えばいい。
ずっと力を使っていなかったため、溜まっていた力の量は、三人を過去の時間に移動させるのは安易だった。
今いるのは、サイナーを使い、展開された力の媒体であり、力の主である空間の中。
「とうとう分かるのね……。でも、それで何もなかったら、ふりだしに戻っちゃうわけだけど」
「その時はその時。それはそれで、違和感の正体は気のせいで片付くだろ」
俺の言葉に、二人は緊張した様子でぎこちなく頷いた。
手を前にかざし、握る動作をすると、目を開けられない程の眩しい光が表れる。
次に自身がいるのは、過去の愛神中学校だ。




