三つ目の疑問_Ⅲ
他が他で悩んだり考えたりする中、美貌の持ち主、愛佳も思考を持ち前の頭脳に走らせていた。
不気味なほどの真っ白な部屋で、白い靴下も履いた足を組ませて悩む姿は、物語の一シーンのようだ。
愛佳が頭脳を使うのに持ちあげた話題は、自分が嫌悪し、周りからは信仰対象となっている最高神リリス・サイナーだ。
リリス・サイナーは、自分を、自身の快楽のために、転生とゲームを実行した。それはいい。嫌と言うほどに知った事実を繰り返してもどうにもならない。悩んでいるのは、何故、そのゲームの参加者が自分だったかと言うことだ。
確かにゲームが終わる直前になったら、自分はゲームに勝ちたくて、まさにそれこそ、死にもの狂いでもがいていたかもしれない。でも、それなら、死にたくない普通の少女を理不尽に殺し、転生させた方が、お遊びには丁度いい。
だが、リリスはわざわざ自分を選んだ。そして、誰よりも強い力も与えられた。
そうすると、もう一つ疑問が浮かんでくる。
僕が途中で自殺することは考えなかったのか。死ぬのが凛音の勝利のサインをした後じゃなかったら、どうしたのだろう。
考えられるのは、まだ目的があるということだけ。しかも、その目的も結局分からなく、ふりだしに戻るのだ。
思考中、自分の部屋のドアがノックなしに開く。こんなことをするのは、自分が知っている人間の中で、一人しかいない。
「おい、愛――ぼ、」
何回言っても治らないからか、こちらにも何かを投げる癖が出来てしまった。
「おい! 毎回投げんなよ!」
「おい! 毎回ノックしろよ!」
同じの口調で返したら、何も言わなくなった。なんだ、つまらん。
部屋に入ってきたのは、予想通り自身の兄である蜜音だった。
金髪の長い前髪をピンでとめ、服装は青のジャージというラフな格好である。手には、春夏秋冬いつでも食べているカリカリくんアイス。夏風邪引いてしまえ、馬鹿みたいに何度も。
「なんだい、こっちは考えごとしていたのだがね」
「いや、お前気付いてなかったか? さっきからチャイム鳴りやまないんだけど? 怖いんだけど? こういう時って、大体お前のストーカーが痺れきらして来てるパターン多いだろ? 今日、誰とも約束してねえって、俺」
思考中のため、意図的に聴覚をシャットダウンしていたため、聴覚を元に戻した時に聞いたインターホンの音に驚いた。僕の力って凄いね。わざわざ蜜音が来るほど鳴り止まない音に気付かないとは。
そう思っている間にも、もう一回インターホンが鳴った。
呆れるように蜜音を見ると、笑顔で毒を吐く。
「妹のストーカーくらい撃退できるくらい、いい兄になったらどうなんだ」
「俺にとっての妹が兄を呼びすてにはしないんだ。可愛くお兄ちゃんって言ってくれるんだよ」
「僕と一緒で、文武両道で優しくて一年中アイス食べない兄になったら呼んであげてもいいよ? あ、人の部屋に入る時ノックするのは基本だから。でも、そうなったら、そうなったで、もう蜜音と言わないよね、それは」
「兄をそれとか言うなし」
会話している間に鳴っているインターホンに急かされ、後ろでギャアギャア言っている蜜音を無視し、玄関へと向かう。さて、今回も面倒くさいストーカーか、それとも後ろでひょこひょこ着いてくる友達が連絡なしで来たのか。
ハイハイ待ちなさいね、と言いながら樋代のドアを開けると、そこには二人の少年がいた。少年、というとなんだが語弊があるように聞こえるが、自分より年上でも、少年は少年だ。
一人は、ウルフカットに青い目の祝福の子である、半純血の黒髪の少年。体格と背の高さがなければ男装の麗人にも見えるくらいに綺麗な顔立ちをしている。
もう一人は、短い銀髪に忌みと祝福のコントラストの目。つまりは青と赤のオッドアイの少年だった。
「おお、今度は二人がかりでストーカーか」
「もしかすると、君のストーカーかもしれないよ?」
「おおふ。この前その話題を前髪と話したんだよな」
前髪。はて、この馬鹿兄は髪と話ができるようだよ?
目の前の少年は、黒髪が苦笑で僕と兄を見ている。銀髪の方は興味がないと言うように欠伸をしていて。
髪をかき上げてから、御客人の前に向き直った。
「さて、どちら様かな」
「え、あ、はい、俺、いや、私は、日熊家のもので、日熊 ひなつと言います。今代リリス・サイナー、貴女様の側仕え、そして二つの槍となりましたので、ご挨拶に伺いに来ました……」
やや茫然、というか焦って驚いて狼狽えながら、黒髪の少年――ひなつは言った。
日熊。リリス・サイナーに仕える、最強と謳われる家系。二つの槍は、側仕えと護衛をする家系の代表ということだ。
ひなつは、後ろにいる銀髪の少年を日熊 白夜だと挨拶した後、視線を僕に向けた。
「いやはや、君が日熊家の。僕を運んだのは君かな?」
「はい」
ひなつが笑顔を見せ、答えた。
「これから、よろしくお願いします」
まるで汚いものを吐くように言ったその言葉に、僕は満面の笑みを浮かべて、目の前にいる黒髪の少年を、
思いっきり殴った。
吹っ飛ぶ体を、銀髪の少年がすばやく受け止めた。ひなつは、殴られた頬をさすり、驚愕に歪めた顔と視線を、こちらに向ける。
「君は、うん、麗しいね」
「――――――――――――――は?」
「顔はいいし体格もいいし、雰囲気からして戦闘にも慣れているだろう。しかも並みの強さじゃない。今、殴られる前にかすかに体をずらしたのも、流石は日熊家と言えるだろうねえ」
「…………あの、……………………ありがとうございます」
「うん? ――話は最後まで聞きたまえ」
お礼を言ったひなつに、意味が分からないと嘲笑う。
この先に紡がれる言葉を、彼は想像していないだろう。ただ黙って話が終わるのを待つのは、そういう風にしか反応が出来ないかららしい。
ただ、ね。一つだけ言わせてほしい。
「僕はその目が大っ嫌いだ! 物凄く、物凄く大っ嫌いだよ、ヴァァァカ!!」
舌を出して言ったやった。その後は、何もなかったかのようにニッコリと笑うことも忘れない。
ひなつの表情は豹変して、綺麗な顔の眉間にしわを寄せて、僕を睨み、叫ぶように訴えた。長年の復讐相手を見るかのように。
「俺も、大っ嫌いだよ!」
その日、安定していた一つの家系と一人の女王の間に、大きな亀裂が入った――。
ひなつの髪型は、パッツンじゃないスタスカの梓くんみたいな感じ。




