三つ目の疑問_Ⅱ
自分には教科書に出てくる有名なサイナーみたいに、偉大な力などないことに、ずっと前から気付いていた。
漫画や小説に出てくる覚醒やら、イメージが大切であるやら、秘められた力があるなど、所詮は願望を書きまくった夢物語だ。
現実は、力の溜めによるものだ。一日か二日か力を使わずに溜めれば、溜めるだけの力は使えるようになった。
主人公のもつ時の力はカッコいいが、現実も見ている自分にとってはそんなものか、と大袈裟に溜息ついたのは、小学生高学年あたりからだった。
確かに、時間を操れるが、ヒーローみたいにヒロインを助けられるわけではない。そもそも敵がいないし、リアルのヒロインはヒーローより強かった。しかも、リリス・サイナーという最高な座についている。
今、自分は敵と美少女を前に、向かい合っていた。
とある違和感を共通し、とある不快感を共通した、三人。
推理混じりの物語は興味がなく、勉強以外で頭を使うこともほとんどなかったため、今この状況で難しいことを考えるのは、それこそ主人公の持っている素晴らしい頭脳を持ってないと無理らしい。
目の前の、青色の髪を持った美少女――忍足秋名は、ぽつりぽつりと話し出した。
「最初に違和感を覚えたのは……、確か、レシートを見た時よ。買ったこともないストラップのレシート。……何を、いつ買ったのか、ちゃんと書いてるんだけど、……覚えがないし、何より、現物が無かったの。どこを探しても、そのストラップはなかったの」
そこで、一度言葉を切ったから、続ける。
「じゃあどこにあるんだろ、って思った時に、愛佳がそのストラップ持ってて……。偶然なんだろうし、愛佳が盗むとかそういうのはないだろうから、関係ないかもしれないけど。でも、なんかアタシ忘れてる、って思ったら、なんか、しっくり来っていうか……」
目の前の美少女は、深い溜息を吐く。
視線を敵――自分が勝手にそう思ってるだけなのだが――に視線を移すと、敵こと忍足夏名は、一度意味ありげに頷いてから、また似たようにぽつりぽつりと話し出す。
「おれはー、なんてゆーかー……、あれ、この会話前もしたかな、って思うときが多くて。その時の会話に混ぜた冗談が、愛佳しか言わないような冗談だし。秋姉が言ったストラップのこと、愛佳に聞いてみたら、親友に貰ったしか言わないで、あと、てきとうにあしらうだけだし。怪しいなって、つまりは勘しかないよね」
軽い口調だが、不確定なものしかないのに不満げが出ていた。たしかに、今自分が感じているように、不快感とハッキリしないもどかしさがあるのだろう。
二人の目線がちゃんと自身に向いていることを確認してから、自分の口を開く。
「俺はなんか、クラスの人数と出席番号が合ってないな、って思ってさ。番号が二十五番だったやつがいるんだけど、そいつの前の二十四番はいない、って気付いて。それに気づいたらだんだん自分の隣の席が当たり前のように存在してるって分かって、さ」
三人が抱えている不快感を覚える、違和感の正体――それは、転入生樋代愛佳についての記憶についてである。
アイツは、まるで随分前から傍にいたように、クラスに浸透していた。他にも、上げられない程の違和感はある。
アイツが、語ってもいない情報を知っているかのように話してくること、とか。
「なんか、さっぱりしないわねー」
「しょーがないでしょ、結局あるのは違和感だけだし」
「それを証明したいから、集まってるんだけどなー。結局、あの達弁と超えられるわけねーし。証明するための能力もねーし」
そこには、ただ無力な子供が三人、集まっているだけの空間だ。
ように、まるで、の言葉がつくものしかないのは、勘しか頼るものがないからだ。
ふと、忍足夏名がじっと見ていることに気付いた。なんだよ、と睨んで返したが、相手は珍しく、ばつが悪そうに目を逸らしただけだった。
謎だけが、深まっていく。




