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リリス・サイナーの追憶  作者: Reght(リト)
第二章 二つの槍、エレジィゲーム
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三つ目の疑問_Ⅰ



 イル・モンド・ディ・ニエンテ――チキュウから千年後の腐敗した世界。その名前には、二つの意味があった。


 一つは、イタリア語で虚無の世界。

 もう一つは、神がつけた存在意義のある人間のことを表している。


 本来、その相対する二つの意味を合わせてそう名付けたのは、〝死〟を司る神――セプリアドゥー・ドゥーウェンと〝癒〟を司る神――コンライト・アモーレだ。


 そもそも、相対した意味を付けたのは、二柱の力も関係することだった。


 死は、そのまま全てを破壊し、死を捧げる力のこと。だが、癒しの力も、実は相対しているように思えるが、そうでもない。むしろ、よく似ている方だ。

 癒しは、一言で言ってしまうと、全てを元の姿に戻す力である。その癒しの力があれば、傷を癒し治すことも出来るが、癒し、全てを創造する前に巻き戻すことも出来る力だ。時の神や、影から世界を創る、それは〝陰〟を司る神――レイメル・オーギュストの力にも似ている。


 かの有名な〝二つの槍〟を創ったのも、その一柱――コンライト・アモーレだ。


 二つの槍は、リリス・サイナーを守護する最強と謳われる家系、日熊のトップと次席に主導権が渡される。


 日熊のトップに必要なのは、何も戦闘力だけではない。側仕えとも言われるため、家事や家柄、血筋に容姿なども勿論含まれる。ただ、決めるのは、前代のリリス・サイナーが予知を使い、決める。

 そのために、未来の槍たちは小さい頃から幽閉され、しだいに存在を無き者とされながら、教育を受け、主人に仕えるために生かされる。使えるのはあくまでも任意だが、今まで拒否したものはいない。


 そして、今代の〝二つの槍〟の片割れ、ウルフカットに祝福の目を持つ少年、――新泉 ひなつは焦っていた。


 一つは、今まで仕えてきた日熊恵一郎がリリス・サイナーの座から離れ、次のリリス・サイナーへの仕えが強制されることになること。


 今代のリリス・サイナーは、神と同等の美貌と力を持ち、最高傑作と呼ばれるほどの叡智と能弁の能力を兼ね備えていると聞いた。だが、それは自身にとってそれほどいい報告ではない。


 ひなつは、高望みなどしていない。ただ、性格のいい主人に恵まれれば、元気でまたは愚かな主人でも、自身が信用さえ勝ち取れば、相手を窘める術だけ持っていれば、自身の人生も主人の人生も安泰だろう、と。そう思っていたのだが。


 そんなひなつの気持ちを嘲笑うかのように、今代のリリス・サイナーは願望とは真逆だった。確かに、ほとんど完璧だと思えるほどに至高な人だとは思う。だが、結局それだけだ。


 報告によれば、性格はとても捻くれているらしい。よく言えば元気で行動力のある、ただ神と呼ばれる美貌の持ち主に過ぎない。その分、悪く言えば少し横暴で独断専行で周りを巻き込み、自分が持っている才能と力をやりすぎなまでに活用しているとも言える性格。


 自分を育ててくれた人――日熊恵一郎には悪いが、実際会って、報告が誤っているような素直な性格でなければ、側仕えの件は断ろうと思っている。どんなに譲歩しても、命をゴミのように扱い、自身も危険だと感じれば、可愛い自分の身を最優先する。


 まぁそれは、結局会ってみなければ判断できない問題なのだが。



 二つ目の問題は、まだ残っている、少し制度の話だった。


 左手に持っている茶封筒に、右手で開く白い三つ折りにされた紙。

 その中にかかれている話は、今いる和室の空気を凍りさせる、側仕え以前の問題だった。



 ――――孤児育成制度。



 その制度は、ある派閥の政治家が新たに作ろうとしている制度である。

 孤児で引き取られた子供を虐待または殺す大人が増えているため、孤児は孤児院に戻されるべきだと、その派閥は言った。

 手紙の中には、その資料と、孤児代表として裁判に出ろというものだった。


 認められるわけがない。そう信じているが、実際まだ結果を渋っているのが現状だ。何も完全に安心できるわけがない。


 ひなつは、和室で一人、その手紙を握りつぶした。



 ここで何も出来ないと言うのは、結局自分は、ただのしがない子供だということを、嫌に自覚させられた。



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