Prologue_Ⅱ
真っ暗な空間の中、リリス・サイナーは顔を歪めていた。
何かを悩むように腕を組み、秩序のない自分の世界でひたすらに悩み続けた。時には縦に一回転して見たり、床を作ってゴロゴロしてみたり。その姿は、本物のように人間じみている。
かれこれ、世界の時間で言えば二週間ほど、彼女と言う一柱はずっと悩んでいた。
何かを念じるように目を瞑ると、一つの面影が頭の中で完成され、しかし意味のないものだとすぐに消されてしまった。
思い浮かんだのは、奇妙な姿の一つの人間。
全ては暗色でまとめられている、道化気取りの反女王派。
滑稽な狐面に体を隠した黒いマント。腰にはナイフを何本と予備し、肩には青い唐傘をかけている敵気取り。
実際、狐面――ディエニーゴ・コンテンデレの率いる反女王派は、消そうと思えばいつでも消せるような底辺な神どもが集まり、小さな反抗を繰り返すだけの派閥だ。自身の反発など、他の狂信的な神々、特に自身の十二神将に命令さえすれば、一瞬で塵になるものを、ただ生かしているに過ぎない。
だけど、簡単に終わらせてはつまらない。小さすぎて消す気にもならないし、消すとしても十分に利用してからにすべきだ。
勿論、自分としてはもう利用している。彼らは気付かないうちに、自身の、最高神リリス・サイナーの、媒体として作っている少女体の、手のひらの上で踊っているのだ。一人でチェスをやって、駒は全て自分で動かしている気分は、錯覚でもなくただの事実。
だが、その存在は今からやつ異端者たちのゲームの勝敗に、偏りが出来てしまうかもしれないのだ。
それはそれで面白いが、しかし自身の計画に崩れが生じてしまうだろう。
消すか消さないかの前に、ゲームをいつ始めるかにも、勝敗は傾いてしまうだろう。
橙色の髪を持つ、自身に似た少女を思い浮かべる。
また縦に一回転すると、また思考を始めた。
日熊の〝槍〟たちも、まだこちら側に付くのか分からないしねえ。
世界の女王は、退屈に顔を歪めた。
今度その美貌に表れたのは、新しい玩具を見つけた、小さな子供の指。
彼女は、少女体の心でこう思った。
――――それならば、神だけではなく、全てを巻き込んでしまおう。
最高神リリス・サイナーの思惑を知る者は、いまだ誰もいない。




