Prologue_Ⅰ
大きな館の中、空気は殺伐としていた。
その部屋には、三人の男がいた。その内の二人はまだ少年に近く、あと一人の中年の男を、半ば睨みつけている。
一人の少年は、半純血の黒髪をウルフカットに切って、水色に近い空色の目を持っていた。祝福の子、と言われるその目を、今は難しく細めている。
もう一人の少年は、綺麗な銀髪に、燃えるような赤目と半純血の少年と同じ空色の目を持っていた。忌と祝福のコントラスト。その目は、黒髪の少年とは真逆に、気だるげに細められている。
中年の男は、二人の視線に、顔を歪める。強面だが、優しい雰囲気を持っている。
黒髪の少年が、静まり返った空気の中、声を出した。
「どういうことですか? 二ヶ月間、何故黙っていたんですか」
棘のある言葉に、中年の男は何も言えなくなる。ただ、黒髪の少年を申し訳なさそうに見ているだけだ。
今度は、銀髪の少年が、殺伐とした空気を壊すように言った。
「ひなつ、お前、何もそこまで怒らなくてもいいじゃねえ? ケイさんだって、上から釘さされたら何も言えねえだろうよ」
ケイと呼ばれた中年の男は、その言葉にほっと胸を撫で下ろした。
よかった。二人がかりで言われると、流石に相手が出来なくなる。
ケイは、強面の顔を無表情にこそしているが、心の中は相当に焦っている。目の前の黒髪の少年――ひなつも大概問題だが、二人よりまだいい。そう、ケイ――日熊恵一郎は思っていた。
「そもそも、教えるも何も、お前はもう会ってんだろうか、リリス・サイナーに」
「…………」
「………………もういいだろう。そういう事だ、もう愛神中学校には転入の手続きは取ってある。明日から行けるようにしておけ」
ほとんど準備などないが、心はまだ追いついていないだろう。
そのことを踏まえて、恵一郎は二人に声をかけ、そそくさと部屋を出て行った。残されたのは二人の少年と、ひなつの少年の怒りと、静寂のみだった。
「んー、で、どうする? や、どうするもこうするもねえけどよ。こっちにも一応拒否権あるんだろ? でも、神の目持ってるぜ? しかもケイさんの名に泥塗るっていうのもなー」
「貴方は黙っていてください、白夜」
近くにあったマフィンを手に取り、白夜と呼ばれた銀髪の少年も、こえー、と軽口で言いながら、部屋を出て行った。
最後に残されたひなつは、手を強く握りながら、小さな声で呟く。
「――――――リリス、サイナー………。…………俺の、新しい主人……」
その声は、その部屋の静寂と一緒に、流されて消えていった。




