樋代愛佳というヒト科についての記述_Ⅱ
凍りついた空気に、凍りついたクラスメイト。ついでに茶髪も凍り付いている。まるで時が止まったような空間に、笑ってしまいそうだった。いやね、黙っていてもわからないよ?
意味が分からず、わざとらしく肩をくすめてみた。周囲には驚きと苦笑いのパレード。わざとらしく口を大きく開いている男子もいた。ああ、うざったい。
そんな中一人だけ、自分の親友が溜息を吐いて呆れている。
凛とした、声。
「愛佳、覚えてないの? 越智くんよ、越智悠馬くん。この前ランキング男子の部で二位を取ってたじゃない」
少しだけ眉間に皺を寄せながら茶髪の名前を教えてくれたのは、私の親友である忍足秋名だ。深い青みのかかったセミロング。長い睫毛を揺らして、黒目を細めた。クラスの委員長であり、メガネはかけていないが、根は真面目なよく見かける〝委員長〟だ。
まぁそれはさて置き、問題は茶髪の子――越智くん。
成程、あのランキングの不動二位か。――まあ、不動は一位もなんだけどね。
〝ランキング〟は、この市立愛神中学校で文化委員会が一か月に一回、体育館横にある掲示板の新聞に載せられるランキングのことで、毎回「美形ランキング」「人気者ランキング」「真面目ランキング」「凄い人ランキング」の五つのランキングがある。「美形ランキング」は二つに分けられていて、女子の部と男子の部である。ランキングの大目玉はそれ。
ちなみに、私がいつも乗っているのは「美形ランキング」の女子の部、「人気者ランキング」と「凄い人ランキング」だ。
しかしこの美形の多い学校でよくやるものだ。それを見に行く女子の気持ちも、正直分からないね。
「に、しても樋代が俺のこと知らないとはなー。自惚れてるわけじゃねーけど、ずっと隣の席だったんだぜ? 名前知らねーとか、まじでショック……」
頭をボリボリ書きながら、越智くんショック宣言。
あ、君、復活したんだね。それにしても、緑の目が綺麗だね。って、あれ、これフォローになってるかい?
「まぁ、それはしょうがないよ。君、名乗ったこともなかったから、知るきっかけもなかったしね」
「あれ、俺初対面の時名前言ってなかったっけ?」
「それなら、私の完全記憶能力が忘れるわけないよ」
「あ、そっか」
そういやそうだったな、と笑う越智くんの顔は、確かに整っていて、人気があるだけの容姿だ。興味はないけどね。無邪気な笑みに対して、私は曖昧に笑った。ときめくことはない。
そして、ふと委員長な美少女である秋名に聞いてみた。
「私も載っていたよね、勿論。何位だったかな?」
「アタシを抜いて堂々一位よ。おめでと」
「いつも通りかい、つまらないね」
「そう思えるのは愛佳だけよ」
再度、秋名は溜息を吐いた。
なんだか私が問題児みたいじゃないか?
――――ま、ある意味そうなんだけどさ。その場合、問題児ではなく異端者なのだけれども。
2013/01/13 文章追加。