マリーゴールドの花_Ⅲ
ドアの向こうに聞こえた小さな悲鳴に、小さな舌打ちをした。気配が二つに増えているということは、まだ家にいたあの馬鹿兄が余計なことをしたのだろう。本当にいらんことをしてくれる。
白い部屋にいきなり入ってきた二つの気配は、奇妙な格好をしていた。
顔を隠す狐面に、青い唐傘。黒いマントのようなもので体を覆い隠し、その腰あたりには刃の光るナイフが装着されている。そして、黒いブーツ。
ここで、少し考えてほしい。
ここは室内である。目の前にいる変人は、ブーツを履いている。
そう、土足である! この白い部屋に、土足である!
折角模様替えしたばかりだと言うのに、僕の神聖な白い部屋が失礼な客人の所為で汚れてしまうのは、結構なショックである。
うん、よし、殺そう。ムカついちゃったし。
考え事をしている間に、分身かなんかで僕の周りを囲んだ御客人。
「それで僕の逃げ場をなくそうとしているならそうとうな馬鹿だけど、」
コロセコロセと煩かった電子音が、一斉にやむ。それと同時に向けられる何人分かも分からない莫大な量の殺気。
「君らの主人がリリス・サイナーよりクズなことが原因らしいな、どうも」
周りにいる狐面の底は、きっと怒りに歪んでいるだろう。
後ろからナイフが三つ飛んできたが、左に少し寄ればあまりにも安易に避けられた。
「君らにかけている術類のやつも、雑で細かい部分が放置されている。人間としての体が傷んできているようだよ」
微かに嘲笑い、今度は憐れむように目の前の狐面を見た。
挑発にのりやすい。ナイフの切れ味も悪い。コントロールも悪い。
相手はおそらく、忠告された〝反女王派〟の下っ端の神共の信者たちだろう。忠告に焦って相手を見誤った、か。
垂れてきた橙色の長い髪を背の後ろに行くように手を動かし、空間を殺した。
全ての狐面の体が強張ったのを感じ、確信する。相手はズブの素人だ。人を殺したことはないだろう。今も、囲んで脅せば従ってくれるなどと甘い事を思っているのだろう。うん、不愉快だねぇ。
新しく用意した空間は、初めてリリスにあった真っ黒な空間だ。
どうなっているか分からない狐面は、逃げたものもいるのか、今は七人となっている。その内一人は凛音のところに言っているのだろう、また気配が増えている。
面倒なことになって溜息を着くと、それが合図となり、相手が襲い掛かってきた。
ニヤリと笑うと、僕は呟いた。
「<束縛>」




