樋代愛佳というヒト科についての記述_Ⅰ
やっと本編…!
目を開いて一番初めに見えたのは、黄ばみかけたカーテンだった。
はて、ここはどこだろう、なんて思うことはなかった。当たり前だ。無論「ココハドコ」「ワタシハダレ」な状態になることもなく、持ち前の頭脳で保健室と理解した。頭脳はほとんど関係ないが。
自分以外の気配はなく、ドアのガラス部分にメモ紙が貼ってあるのに気付く。小さく、薄ピンクの可愛いらしいメモ紙に書かれていたのは、愛佳が保健室出るときの閉じまりについて書いていて、最後に小さく〝水越 織愛〟と書かれていた。成程、保健のミズオチ先生はこう書くのか。織愛と書いてオリエと読むのも案外洒落ているじゃないか。
春風が通る。開けていた窓の周りの鉄枠が冷えていた。
自分の派手な橙色の髪が風にそって動く。燃えるようなこの色は、目の色もあわさって可憐に見えるらしい。窓に映った自分の顔を見るのが嫌だったため、閉めると同時に鍵をかけ、窓とドアの間にある机から保健室の鍵を取り、先ほどまでベットに失礼していた部屋を出る。
保健室から出ると、今まで感じなかった肌寒さが襲ってくる。思わず腕を抱いた。
一年の三学期初め。そう長くもなかった冬休みを終え、ああ始まった勉強の日々。さよならゲーム、マンガたち。ようこそ参考書、単語カード。そしてノートを取る日々。まあ、私はマンガ読まないしゲームもしていなかったのだがね。
タンタンッ、と少しリズムを載せて、一年の教室がある四階まで上がると、同時に三時間目終わりのチャイムがなる。あれま、三時間目は国語だったようだ。国語教諭である毒島 桐子(45)は、授業が必ず時間を超えるのと説教が煩いのでとても有名である。あ、生徒の中ではブス島とあえて連呼していた男子もいた気がする。
結局、教室へ入るのに皆の注目を浴びてしまった事実は変わらないようだ。
授業を受けていないのに、クラスメイトと共に礼をして席に座る。机の上に置かれたままの二時間目強化を鞄にしまい、それからイスに座った。
「な、樋代。お前どこ言ってたんだよ?」
右隣の茶髪男子(名前なんだっけ)が話しかけてきた。丸めの緑の目が大きく開かれている。アハハッ、どうしよう、本格的に名前覚えてない。……自分の映像記憶能力とやら完全記憶能力やらが弱まっている。――のはありえない、か
思えば、この茶髪に緑の目の子、名前聞いたことなかった気がする。気が付けば相手は自分の名前を知っていたというのに。
「保健室だよ。目眩がしてね」
「ふーん? 毒島が嫌だからサボってんのかって思ってたけど、なに、風邪?」
「頭痛くないし喉痛くないし鼻水が出ているわけでもない。風邪とまではいかないんじゃないかな」
「普通に風邪じゃねえって言いやいいのに」
微笑する彼は眩しかった。てきとうに相手をしようと思っていたためか、相手の顔をよく見ていなかったが、結構いい顔をしている。カッコイイ、という意味で。
「――――ところで君」
「ん?」
少し頬を赤らめている男子に、笑って言ってやった。
「君、名前なんだっけ?」
クラスが凍りついたのを確かに感じた。私は寒いのは嫌いなのだがね。こんなに注目されたのは、入学式の日以来だよ。
視線に大袈裟な驚愕が混ざっているので鬱陶しい。邪魔だとうざいのだよ言ってもいいが、それだとこの樋代愛佳の名が廃る、というわけで。
ああ、今日はなにが起こるんだろうね? 楽しいことだといいな。ちなみに、現在進行形だと嬉しいね。
日常から入らないと、とは思ってるけど、
一話を切るタイミングがわからない…。
日常編1.
2013/01/13 文章追加。一人称の改変。