黒色のステージへ_Ⅰ
一時になると同時に、インターホンが客人の来訪を知らせる。
もちろんドアの向こうにいたのは、いつもの歪んだ笑みを貼り付けていた愛佳だった。
中へと導き、殺風景だが、と言うと、本当に殺風景だね、と皮肉が返ってきた。
何故家を知っているかは聞かなかった。愛佳も、リリス・サイナーから、なんらかの力を貰っているのだろう。わたしも緑の力、つまりは植物を操る力を貰っているのだから、別に驚くことじゃない。そも
そも、転生すら規格外なのだから、驚くも何もないじゃないか。
「君、こんな殺風景なところが好きなのかい?」
「日常生活で他に必要なものがなくてな。逆に困っている」
「趣味、ないの。寂しい人だね」
「あると言えばあるが、既にあるパソコンか携帯か音楽プレーヤーがあれば、それでいいからな」
「ふぅん、…………君、音楽好きなんだ」
「まぁな。執着しているわけでもないが、趣味と言えば趣味だな」
部屋を眺めて言う親友に、淡々と答える。
元々、前世では十歳までしか一緒にいなかったため、記憶を取り戻しても趣味や確かな性格を知っているわけではなかった。幼い頃から、彼女は少しも変わっていないようだが。
それは、逆に言えば異常だ。
あれから十三年がたって、彼女は今中学一年だ。それが、十歳の小学五年生の精神と、まったく変わってない。いや、まったくと言うのは語弊があるだろう。ただ、全体的に子供っぽく、我儘の言い方や人のからかい方。相手の顔を伺って言葉を選ぶところも変わっていない。
言葉を選ぶと言っても、人に嫌われたくない一心と言うワケでもなく、むしろその逆で、相手の怒ろうとする地雷といなす程度で終わる、人の感情の境目を行ったり引っ込んだりしている。人間の感情を、いとも簡単に計算しているのだ。しかも、それはまったく悪気がなく、むしろ無邪気しかない。まったく、末恐ろしい。
彼女が来ている白いワンピースの端を掴む。
家では、流石に居心地が悪い。出来るだけ反論させず、納得できる理由を用意しなければ、目の前にいる絶世の美貌の持ち主は、提案に従ったりしないだろう。厄介だ。
「調べものに行くのだろう。用があるのは家ではないじゃないか。早く終わらせて、帰りに買い物付き合ってもらうぞ」
「――。…………………………あー……、うん、いいけど。なら、夕飯は僕のも作ってね」
ボーッとしている、というよりも、あまり興味なさそうに言った。素直にそこで止まったので、リビングに用意していた鞄を持って、家を出た。
厄介な親友を連れて、行こうとした時。そう言えば、と、行くところを伝えられていなかったことに気付いた。
「愛佳。調べもの、どこに行くんだ?」
忘れていたことを恥じたためか、声が上ずる。
それに対し、愛佳は特に気にした様子もなく、機械のように答えた。
「調べるもの、と言ったら中央図書館に決まっている」
決まっているらしい。
中央図書館に着くように進路方向を決め、進みだす。
隣で、神の目を持った少女は、まるでそう決められた動作を、人形のように繰り返している。
「何を調べるんだ?」
「ニヤニヤ神のことだよ」
「誰だそれは」
「リリス・サイナーに決まっているだろう」
やはり決まっているらしい。どうも、彼女は前より自分中心となっている。
「調べてどうするんだ? というか、何の為に?」
問うと、彼女は何でもないように、それこそ淡々と言った。
「神を殺すためだよ」




