主人公コウタイのお知らせ_Ⅲ
顔をあげられた状態で固まり、サクラは何も言わない。ただニコリと笑い、その後手を離した。からかわれていたのだろうか。抵抗をやめた途端やめられた。いや、やめてほしかったのだけれども。
「アンタな、そう言っとぉけど、今何時や思ぉと?」
知らない。だから、答えない。答えられない。
「今な、もう六時過ぎとんよ。アンタほおっとぉと、何時までおるか分からんやん。そーなっと、近所住んどんうちらの親も一緒にアンタ探すんになるんよ。アンタの親が電話かけまくーてな」
小学二年のわたしは、その時詳しいことは分からなかったが、色々あって〝迷惑〟と言う単語だけは嫌というほど知っていた。と言うより、分かっていた。その迷惑をかけた後の親の顔、とか。眉間に皺を寄せて、思いっきり睨むと、美少女は厭味ったらしい笑みを浮かべた。
「嫌んなら、早う帰りぃや」
確かに嫌だ。でも、家に帰るのも嫌だし、そもそもこの名前すらも知らない美少女の言いなりなった気分があり、もっと嫌になった。
そして、結局彼女とわたしの親が探しに来たのが、彼女の親は歪な笑みを浮かべて、盛大な笑い声を上げて、彼女の頬を殴ったのだった。
目が覚めると、鳥の小さな鳴き声と、窓から出る日差し。
夢変わりに見ていた記憶は、相変わらず正常のようだ。
さて、今日は一度サクラ――愛佳を遊ぶのに誘ってみるか。
体を起こして、腕をさすりながら、ふと疑問に思った。
わたしと愛佳が死んだのは、――――あれと、何かもう一つ原因があった気がしたのだが。
さて、なんだっただろう。
難しいことが基本苦手なわたしは、その時、まぁご飯食べながら考えればいいかと思い、その疑問を放置した。
リビングに行くと、テーブルの上に置いてあった水色の携帯は、メールの受信を知らせていた。
差出人の名前は樋代愛佳。
親友であり、ゲームの答えである人物。
記憶の中での愛佳は警戒心が強かったため、初対面でメールアドレスを聞けたのは正直驚いた。まぁ、あちらはこっちが知り合いだと分かっていて、予測はあっているとだとすると、話はべつだが。
内容は今日暇かと言う疑問と、自分の調べものに付き合うんだ、昼ごろに行くから準備していろとの決定事項。相変わらず、独断専行な態度はお変わりないようで。
了解の返事を送り、温めたグラタンを食べる。朝からグラタンは避けたかったが、気付けば冷蔵庫はカラ同然だった。あまり食事に気にかけない所為か、一日二食になる時もあり、あまり冷蔵庫は見ていなかった。今日調べものしに行くらしいから、買い物にも付き合ってもらおう。偉そうな美少女にも、それくらいの我儘は許してもらえるだろう。そう思うと同時に、何故あの大胆不敵で横暴な愛佳に付き合ってこられたのか、疑問に思う。
食べ終わったグラタンの皿を捨て、用意するため、自分の部屋へ向かった。




