主人公コウタイのお知らせ_Ⅰ
まさか、ゲーム開始二日目で会えるなんて、誰か思うか。
公園のベンチに、自分の隣には、ココアを飲んでいる前世の親友。
その逆の隣に座っている悠馬。
いや、まだ親友だとは決まっていない。あわてん坊でもなければ、素直すぎて目の合った瞬間に名前で呼んだなんてことはない。本当にうり二つな別人、リリスに作られた偽物かもしれない。
まさか、三人で、しかも公園のベンチに座るなんて。
とう言うか、思いついた方がおかしいよね、これ。
また、時間は三十分ほど前に遡るのでした。
横断歩道で運命的な出会いをした僕と親友(仮)。そしてオマケの悠馬は、立ち止まっている僕たちに、信号が赤くなる前に渡るように促してくれた。ああ、君がいなければ引かれていたかもしれない。オマケとか言ってごめんね、訂正しないけどね。
横断歩道を渡り終わった後、混乱している〝純血〟の彼女の腕を掴み、一言。
「時間ある? あるよね、絶対。ちょっとお話でもしないかい? うん、しよう」
新手の強引ナンパにしか思えない。彼女が親友なら、の話だが、もしかしたら僕の顔にも見覚えがあるのだろう、普通についてきた。うん、僕以外に着いてっちゃダメだよ。君、自覚してないけど、結構可愛いんだから。
ま、話すのはそんだけ。あとは移動のみ。何故公園をチョイスしたのかは、落ち着いて話せる近くの場所、を探していたら僕の頭はここ陽野高公園かと思い立ったため。
隣でそわそわしている親友に、私は出来るだけ優しい声音で話しかけた。
「君、名前は? どこの学校に通っているんだい?」
ニコリ。二人とも驚いた。悠馬はショックを受けたようにも見える。普段の態度、悠馬には改めるべきかな。親友(仮)はさっきの強引さが見られないからだろう。
彼女は少し、震えた声で言った。
「名前は、川島凛音。学校は……、光聖歌学校だ。君は?」
「僕は樋代愛佳。学校は愛神学校だよ。あっちで拗ねているのは越智悠馬。僕とクラスメイトだよ」
名前は違う、か。まぁ転生したところで同じ名前が付けられると言うのもおかしいか。
それにしても、素直に驚いた。
あのニヤニヤ神のことだから、条件やヒントがないのはおかしいと思ったんだ。ゲームをするなら対等。それこそアイツのやり方だ。見て聞いて分かるヒント。それが外見などと誰が思うか。もう一度言おう。誰か思うか。
「行き成り呼び止めて、悪かったね」相手の様子を伺いながら、僕は言った。「――昔の親友に、似ていたんだ。それはもうそっくりでね」
川島凛音の雰囲気と、僕を見る目が変わった。
真っ直ぐな目にあるのは、疑問と驚愕と、親しみ。
僕とは違った、確信のある目。
――これは決定、かな。
「ちょっと、後ろ向いてくれるかい?」
「え、は?」
「うなじが大好きな変態の悠馬にサービスだよ」
「ああ、成程」「ちげぇよ! お前もそれで納得すんなっ!」
おや、〝チルハ〟は悪くないよ、悠馬くんや。
後ろを向いた〝チルハ〟の背中に手を当て、目をつぶる。記憶を探るようなイメージを終えた後、人差し指で背中をなぞった。ぽぅ、と一瞬赤く光る。よし、終了。
今したのは、勝利のサイン。記憶と共に入ってきたゲームの詳細に、こうあったからだ。
『チャンスは二回まで。こいつが正解だと思ったら、背中にサインをしろ。そいつが親友で、勝利したのなら、ゲーム終了後お前は死んでいるよ。お前がいたと言う記憶もなくなっているさ』
なんと便利なゲーム方法。なんとチートな頭脳。もう力の使い方が分かるじゃないか。
「……おい、もういいか?」
「ああ、もういいよ。悠馬のいやらしい目によく耐えてくれたね」
「俺見てねぇし!」
笑いそうになるのを必死に、それは必至に堪えた。肩が震えているかもしれないが、特に二人の反応に変わったところはない。
あっはっはははははははははッッ!! あはははッははははははッッ! ははははははは、ははは、は、ひ、ひひひひひひひひひひ!! ひひひひひひひッ、ひひひッ!
だって、僕は確信していた。
こいつが、チルハだと。
親友であるチルハには悪いが。何度だって言おう。同じく記憶を取り戻しているらしい凛音には悪いが、
――――勝った。
ほくそ笑む。
―――――だって、その時愛佳は知らない。
―――――だって、その時サクラは知らない。
―――――だって、その時凛音は知らない。
―――――だって、その時チルハは知らない。
知るはずがない。
オレンジ色のステージは、今黒色のステージへと変わる。




