Is this a close friend?_Ⅲ
題名の意味は
「これは親友ですか?」です
目の前にあるのは、愛神学校と同じくらいある愛神市中央大図書館。
五百年前から本を全部保管しているとまで言われる本の量と綺麗さが有名で、何より、ここには愛神市の地図や歴史の本、それと愛神市の住人の顔写真と学校を載せている本がある。僕は一回、それでストーカーされたことがあって、撃退した時に情報を吐いてもらったって、覚えている。僕の目的はそれだ。親友を、チルハをかたっぱしから探す。取り敢えず愛神市の住人全部。神の力に頼ってもいいが、挑発に安易に乗るのは癪だ。
自動ドアを開けて、越智くん――悠馬と一緒に入る。越智くん、より悠馬、の方が呼びやすいね。
「悠馬」
「おー、……え、」
「いや、越智くんと呼ぶのもなんか飽きてね」
「飽きるって……」
「今から悠馬って呼ぶから」
「別にいいけどよ」
そっぽを向きながら答える悠馬に、僕はニンマリと笑って見せた。
図書館に入ると、既にいる客の注目を浴びる。
理由は二つある。
一つは、僕らの容姿。当たり前だ。ただえさえカッコいい悠馬に、その傍らに金の目を持った美少女がいれば、驚くのも無理はないだろう。自分の容姿を見せびらかすようにして口をつりあげれば、悠馬が溜息を吐いた。
もう一つは、僕が制服を着ていることだろう。愛神市の一番偏差値が高く、中学受験を受けるのを望むのは少なくない。むしろ物凄く多い。その中で一度面接をして、サイナーを一番魅了出来るように教師たちに見せ、合格出来たらやっと受験だ。面接の時点で半分くらい落ち、受験でまた半分くらい落ちる。学校が大きいのに、とても設備がいいのに、生徒数が少ないのはそれが理由だ。
その愛神学校の制服を着た金の目の美少女が、美少年を連れて自分の目の前にいる。実際、僕以外なら誰でも驚いて、その後目を逸らすだろう。ふっ、僕ってば罪づくりな女だね。なんたって美少女(笑)だし?
立てば芍薬座れば牡丹歩く姿は百合の花。そんな僕がズカズカと歴史のコーナーに歩いて行く。後ろから着いてくる悠馬は姫を守る騎士か。いいじゃないか、絵になるさ。誰が書くかも分からない絵に、ね。
コーナーの上を指さすと、悠馬が待ってましたとばかりに、指さした本を取ってくれる。彼を連れてきたのは、このためだ。前世の記憶があるぶん、精神は落ち着いているが、前に生きた分背が追加されてくれるわけじゃないので、僕の身長は悠馬よりも低く、なにより、沢山の本を置いているここの本棚は高く、女じゃ大人じゃないと取れないだろう。そもそも、悠馬も男子の方じゃ背が高い方だし、僕だって女子じゃ高い方だ。細くて綺麗な足がたまらない、って言われたことあるよ、例のストーカーさんに。だから、悠馬に無理強いした僕は決して悪くない。言い訳になった。まぁ、借りた本と荷物持ってもらって、最後には僕の家にあげさせてあげようと思っているから、本当に、僕、悪くないよ?
図書館では静かに。
図書室、での方がよく聞くけど、今でも続いているマナーの一つ。まぁ、皆煩い中で本読みたくないし、本読みに来る人って、大体大人しい人ばかりだろうけどね。
悠馬に取ってもらった本は、三冊。『愛神市住民票一覧』、『愛神市住民票一覧2』、『世界の歴史-サイナー編-』の三つで、名前と顔と学校が書いてあるこの世の住民票が頁全部に載っている重い本を二冊と、小説の一般の大きさくらいある本を一冊。コーナーの真ん中にあるテーブルとソファーまで、悠馬が運んでくれた。
僕が読んでいる間、悠馬は僕の邪魔をすることなく、隣に座って文庫本を読んでいた。題名はゲームの世界に巻き込まれてなんとかなんとか。ゲーム。誰か攻略したいのか。あ、僕か。
僕の作業が終わったのは、三時間後だった。
ずっとシリーズを呼んでいた悠馬は、頭をぐるぐるまわして、体をボキボキ言わせていた。その隣で僕はすまし顔。時々、悠馬のスペースを奪って、寝ながら見ていた時もあったし、悠馬の肩に体を預けて呼んでいた時もあって、体は疲れていなかった。悠馬は、一言も文句を言わず、僕にされるがままにされていた。よい子も悪い子も、図書館でそんなに自由にしちゃダメだよ。ああ、悠馬よ、君には僕よりいい子がいると思うんだけどね。
借りた三冊を悠馬に渡し、隣を歩く。
そして、横断歩道で青になるのを待っていた時、向こう側に黒髪のツインテールの子がいた。しかも、目も黒。
「お、あの子〝純血〟じゃん」
悠馬の言葉に頷いた。
〝純血〟とは、サイナーの力に体が惑わされず、日本特有の黒髪黒目を持った人のこと。逆を言えば、僕を含めた皆が黒髪黒目じゃないのは、サイナーの力が体に宿って、体に変化が起きた結果だと言われる。
悠馬は驚いていた。あまり見ない〝純血〟に。
僕も驚いていた。〝純血〟であることではなく、彼女の顔を見たからだ。
信号が青に変わって、三秒後。
俯いていた黒髪黒目の彼女は、顔を上げる。そして、彼女も僕と同様に驚いて、目を開く。悠馬の不思議そうに問う声も、雑音にしか聞こえなかった。
――――横断歩道の向こうにいた彼女は、前世の親友赤尾散葉と瓜二つだったからだ。




