31×リミット_Ⅱ
すると、どうなんだ。つまり私は二時間ずっと寝ていたというか気絶、していたのかな。この私が気絶か、……うむむ。結構耐えがたいショックなのだよ越智くん。あ、越智くんまだ帰ってきてなかったや。残念。
秋名を見ると、既にシリアスを超えて夏名ともイチャラブコメに変わっている。安心したんだろうが、その変わりようはオネーサンのハートがパリーンだよ? 擬音か。擬音だよ。
それにしても、気になることがある。
私にサイナーの力など無いハズだ。
サイナーの暴走で気を失うなど、有り得ない。
秋名が髪を表す水を操るサイナーを持っているのに、夏名が火を操るサイナーを持っているように。この世界には能力者は沢山いる。逆を言うと、サイナーでない方が珍しい。そして、今生きているのはキセキと言える。
何故か。簡単なことだ。サイナーを持たない人間は、サイナーを持つイカレたやつらの〝餌〟になるからだ。力が無いと知られれば、五歳で死ぬような事件は、そこらへんにありふれた話となっている。私が今まで生きていられたのは、巧みな嘘つきの性格、雄弁と頭脳で、あらゆる危機を回避してきたからだ。そして、私がサイナーしか住めないと言う愛神市の住人になれたのは、自らの美貌と簡単なトリックで大人を騙し、こう、豪語していたからだ。そうつまり、仕上げはこれだ。
「私には運命を操るサイナーを持っている」。
皆の前で堂々と、偉そうに言えば、嘘と疑うものなどいないだろう。
大人を騙し、愛神市に住んで、サイナーを持っている秋名と夏名と一緒にいる(もちろん越智くんもサイナー持ちだ)。嘘が皆にばれないとは、これだけ策を重ねた結果だ。偉そうにして豪語すれば、命を狙われる可能性もあるが、今まで多数のサイナーをそうやって騙し続け、勝った私一人に、誰が嘘と抗議出来ようか。
まったく、恐ろしいな。こんな子供本当にいるのか? ま、自分なんだけどね。
それで、私の自慢話は置いておくとして。
サイナーの暴走とは? 有り得ない。倒れた私を発見したやつが、そう言う現象と間違えたか。いや、でもそれなら治療している間に、違うと分かるはずだ。
――――まったく、何が起こっているんだか。
知っているんだけどね。
――――――――――――――――――――――――――――――ダウト、
私は何も知らないさ。
前世の記憶を取り戻したということ以外、何もね。




