31×リミット_Ⅰ
さんいちのりみっと。
そう読みます。
親友がどこかおかしいとは気付いていた。それが、どれほどのものかは分からなかったが。
だって、死体を見るたびに嫌悪を露わにしている。
だって、殺人現場を見かけた時の殺気が凄すぎる。
だって、アタシの話を聞いた時のあの表情は――。
だって、アンタは覚えてないでしょう?
いつだって、そう、まさにあの時だって、愛佳は――――
目を覚まして、一番初めに見たのは、保健室の汚れた天井ではなく、薄ピンク色の壁をしている自分の部屋の天井でもなく、泣きそうな――いや、もう既に泣いている秋名の顔の至近距離版だった。
涙で濡れている睫毛がエロティックだね。いやいや本当だよ? 決してこの場が嫌だったわけでは――あるんだけどね。
がくっ、と力を捨て、しゃがみこむ秋名。近くに近寄る夏名。笑顔で愛佳の容態を聞く保健教諭の水落先生。そして、涙目な越智くん。その部屋にいたのは、その四人と愛佳だけだった。
周りを見ても、ここがどこか分からなかった。
白い、部屋。壁も白、床も白、ベッドも白、機械も白。機械。なんの機械だろうか。医療器具の可能性が高い。数ある機械の中の、自分の眼の前にある核のような、卵ぐらいの緑に光っている電気がある。ただの電気だろうが、卵型に丸に作られた緑色のガラス製の入れ物に入っているため、そういう風に見えるだけだろう。
その核から、自分の腕や足、肩のあたりにチューブがつけられている。何事だ。何事だよ。そっか、私、倒れたんだっけ。意識を覚醒してから一分後、ようやく愛佳は状況理解する。
まぁ、ここかどこかは後で気に掛けなくとも知れるだろう。
それよりも、だ。
秋名と越智くんが泣きそう(秋名はもう泣いている)になっている理由。私は倒れた以外に何かあっただろうか。無いな。少なくとも私の記憶がある時には。
それならば、やはり疑うまでもなく、泣かせたのは私だったらしい。
「ここはどこ。なんで泣いているの。なんで水落先生がいるのかな。とりあえず今は何時かな。それとお腹空いたよ。喉も乾いたね。――と言うわけで越智くんよろしく」
「~~~っ! お前なぁ! 起きて一番にそれかよ! どれだけ心配したと思ってんだよ!? ああああ、もう!」
涙目のまま頭をガシガシ掻くと、部屋を出ていく。その背中を見て、舌を出してやった。やーい、パシられっ子ー! お前の母ちゃんきーれーいー! ……しょうがないじゃないか、私は嘘をつけないんだよ。正直者なんだ。馬鹿を見る、正直者だもの。
近くにあったイスに座り、水落織愛の白衣とべっとり(ちょっと過言)口紅が目につく。
「ここはサイナー専門の治療室よ。貴女が倒れたのは、サイナーの暴走だって言っていたわ。私は今丁度来たところなの。様子を見に来たのよ。今は七時半。ああ、日は変わってないわよ」
適当な答えをありがとう水が落ちちゃう織愛さん。
欠伸をすると、腰が痛んだ。湿布張るか。婆さんか。