川島凛音というヒト科についての記述_Ⅲ
さて、どうしよう。
学校の宿題を終わらせると、その後が暇になってしまった。
夜ご飯と言う名の夜中ご飯は作ってもお腹空いてないし。自習をしようにも、ノートは宿題以外全滅(言わなくてもいいだろうが、勿論イジメ被害である)だし。殺風景な部屋から、趣味なんてものは無いと物語っている。
寝ようか。――寝られるだろうか。
布団に潜り込むと、本日二度目の睡眠。まだ睡魔は来ない。
静かに目を閉じる。まっくら。当たり前だ。
脳裏に移る光景。今度は前世の記憶じゃない。でも、今世の記憶でもない。小説に出てくるカッコいい空間の名前なんてない。
――――そこは、ただただ真っ暗な空間。
いるのはわたしと〝白〟の神様。
彼女は、自分を神と言った。疑いはしなかった。元からそういう本が好きで、少し夢見たのと、空間と〝白〟がどこか現実離れしていたから。
神は言った。お前を転生させてやる、と。
「期限はお前が気付いてから――つまり、思い出してから一か月だ」
わたしは言った。まだ、朦朧としている意識の中。
「×××××××××××××××××」
神様としてではなく、〝白〟として、一柱は驚いた。そして、何より動揺していた。それが、どう凄いのはその時わたしは分からなかったが、今になってようやく分かった。神が、リリス・サイナーが動揺したのが、どれほど凄いかを。
転生したのは、リリス・サイナーが信仰対象とされている、腐ったセカイ。人殺しは捕まらず、誰が殺されてもそいつの知り合いは泣いたりしない。
怖い。
素直にそう思った。わたしはサクラを失ってから、――――いや、〝あれ〟を見てからか、死というものに敏感だ。血を見るたびに思い出す光景。〝あれ〟――――×を見たら嫌にでも振り返る記憶。
あの時は、サクラを庇うなんてことまで気が回らなかった幼少時代。だから余計に恐怖がましただろう、あの恐ろしい、×で××××、サクラの×××××。
それが、平然として起こっている世界。
しかも、わたしが生きていたあの世界の、未来。
嘘だ。これこそが、神に会うより信じられなかったんだ。
確かに、サクラと見た〝あれ〟から、幸せになるなんてなかった。
でも、周りは優しかった。
知り合いの死を悼み、友人が落ち込んでいたなら慰める。それが普通だ。少なくとも、周りになんて言われようとも、それだけは譲れない。
そんなわたしを嘲笑うかのように、この世界は真逆だ。知り合いの死を当たり前だと思い、友人が落ち込んでいるのは蜜の味。
そんな中の、神様のゲーム。
――――その時の凛音は、物語の結末を知らない。
それこそ、神のみぞ知る御伽噺だと言うことも。
だって、一縷の望みだってことぐらい、〝白〟は知っているだろう。
神は言った。ゲームをしよう。愚かな人間を嘲笑い、アオイサクラにそう言った。
「ゲームに勝てば、お前を殺してやらんこともないぞ」
〝白〟は言った。ゲームをしよう。今にも幸福を待ち構えている目の前のアカオチルハに、そう言った。
「ゲームに勝てば、お前の願いを叶えてやらんこともないぞ」
その意味が、物語の結末はオレンジ色のステージに立たされていることに、
いまだ、気付かないまま――。




