川島凛音というヒト科についての記述_Ⅰ
わたしに居場所なんてものはなかった。
家には親は滅多に帰ってこないし、帰ってきても聞くのは毎日学校に行ってるか、授業についていけているか。そんなことばかり。
学校は語らなくても、――語りたくもないけど、友達なんていない。親友なんて夢のまた夢。今の状況じゃほしいなんてことも思わないけど。イジメじゃない。苛められている人には失礼かもしれないが、イジメみたいに形がハッキリしている方がまだよかったかもしれない。
無視される。教科書が濡れている。聞こえるように嗤う。
パターンなんてその三つしかない。でも、精神的に辛かった。自分から一人がいい、なんて言う性格ならよかったが、生憎わたしは群れたいタイプだった。テンプレすぎるよ、そんなのなくていいよ。
髪にかかった紙ゴミを掴むと、教室の右前の隅にある青いゴミ箱に投げつける。
――なんで後ろの席にいじめっこ!? どれだけ運がないんだ!
とにかく、わたしは現在進行形でイラついている。
「ああ、もう」
イスを蹴る。倒れる。当たり前だ。
その当たり前の状況にも、イラついている。
鞄を乱暴に掴むと、盛大な音をたてて教室のドアを閉める。
冷えた廊下に響く足音にすら苛立っている。少し当たったりするだけで手が痛い。この温度で真冬じゃないのが不思議だ。
冷たい手すりに触れながら階段をおり、靴を履いていると、空きっぱなしになっている窓から風が吹く。
皆帰った後で、スペースの空きすぎている駐輪場。倒れている自転車。またかふざけるないっそおまえがしんだらどうなんだ。
起こしてから鞄を籠に載せ、自転車に乗ると、思いっきりペダルをこぐ。風が当たる。寒い。気にしない。早く帰らなければ、今度は部活にいるクラスメイトに会ってしまうことになる。
わたしの家は学校に近かった。自転車で五分が近いかどうかは、自分の言い分だから、一般的にはどうか分からないけれど。
少しだけ花を飾ってあるわが家の玄関につくと、定位置に自転車をとめる。鍵を余計にガチャガチャ言わせて、家に入る。
殺風景な自分の部屋は、机とベットしかなく、床に鞄を置くと、冷凍食品を電子レンジで温める。ちょっとしてから電子レンジから取る。食べる。馴染んだ味が虚しさを引き立たせる。
やっと頭の熱が冷え、カイロを出して手で擦る。毎回毎回、怒るくらいなら何か行動を起こせばいいじゃないか、とは思う。でも行動を起こさない。起こせない。それだけの勇気は、今の自分には無かった。
なんとなく、テレビをつけると、そのままにして部屋に戻った。
家族に家族らしいことをしてもらった記憶がない。金を払ってくれていることぐらいだろうか。
親友もいない、そもそも友達すらいない。夢のまた夢。夢で夢を見るものか、なんて的外れなことを思ってみる。
そんなわたしにも、楽しみがあった。
部屋にあるベットに寝そべって、思い出すだけでいい。
わたしこと川島凛音には、前世と思われる記憶があった。




