閑話_追憶の日記、彼と主人の一時
部屋を片付けたら出てきたもう黄ばんでいる一つのノート。
懐かしい、と思わずずっと見ていた。今でも、目はノートから話そうとしない。記憶を懐かしむのもまたにはいいじゃないか。
コンッ、と二回音がして、いいよ、と返事すると入ってきたのは青い目の少年が部屋に入ってきた。
「部屋が行き成り静かになったので見に来たんですけど……、日記、ですか」
「ま、〝僕〟が書いたんじゃないけどね。力使って、行動を全部書かれるようにしているんだ。そこから、僕は削除だけしたら日記みたいなものになってね」
「日記くらい普通に書きましょうよ、普通に」
「残念だったね。僕に普通と言う概念は基本存在しない」
「貴女らしいと言ったらそれで終わるんですけど、……ね」
青い目の青年――ひなつは、溜息を吐いた。
自分の主は一体いつから、こんなにノンビリした人になったのだろう、と。前の荒れよう――暴走していた時期よりいいものだが、今更日記を見て、どれだけ時間が立っているのか分かっているのだろうか、と。
溜息を吐かれた部屋の主は少しムッとしたが、今は、日記を見つけて見始めた時間から二時間経過していた。これでは反論のしようもない。
日記を引き出しにしまい、部屋から出ると、彼女は一言だけ、ひなつに言った。
「茶」
完全に膨れてしまったようだ。
ひなつは、そんな主に呆れを覚えながら、丁寧にも茶の準備をしていた。ついでにと、お八つに(主用に)取っておいたお菓子を出す。
無言でお茶を出すと、無言で睨まれる。俺はなにかしただろうか。ひなつは悩んでみるが、やはり八つ当たりとしかいいようがない。
ひなつは必至に笑いを答える。心を読める彼女なら、隠してもしょうがないとは分かっているが、今隠さず思いっきり笑ってしまっても、自分の主は余計に怒ってしまうだけだろう。――可愛いなぁ。
いまだに笑いを堪えて、拗ねている彼女に、話題を振った。
「どこを見てたんです?」
「何が」
「日記ですよ。俺と会うところでした?」
「残念ながら違うよ。ふん」
そうとう気分が悪いらしい。なんだが理不尽だ。言葉に棘を感じるあたり、まだ怒っているのだろう。
「そう、だなぁ……」
茶を一口飲んで、ふぅと息を吐いてから、彼女が呟いた。どこか遠くを見ているような目をして、彼女は急に雰囲気を変えた。苛立ちから来ていた威圧感は消え、和やかな雰囲気が漂っている。
「確か、〝私〟が記憶を取り戻したところだったかな」
淡々と。だけどどこか嬉しそうな声で、彼女――樋代愛佳はそう言った。