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リリス・サイナーの追憶  作者: Reght(リト)
第四章 偽物と異端者、神と親友の娯楽
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襲撃_Ⅰ


 世界に祝福を。例えそれが壊れた世界でも。


 愛神市で受け継がれてきた聖歌が響き渡る。誰もが疑わない、絶対の信頼を寄せている最高神へと。感謝と畏怖と、――願望を、全て込めた歌声。何千人が集まる会場の中、埋め尽くされた白。入ってきた扉を真っ直ぐ歩けば、真ん中に白百合と白薔薇のセットがある。そこで用意された玉座に愛佳が座り、わたしが従者のように後ろに立つ。少しだけ時間を置き、愛佳の前で二つの槍が跪いた。

 祝詞を紡ぐ。



「我に偉大なる最高神――リリス・サイナーの名を以て、忠誠を」

「死の槍にて、忠誠を誓います」

「癒しの槍にて忠誠を誓います」



 愛佳の言葉に続き、白夜、新泉さん。

 本来〝二つの槍〟は、国が所有する神器だった。癒しの神であるコンライト・アモーレと、死の神であるセプリアドゥー・ドゥーウェンが、直接日熊家のものだと告げなければ、そのままこの中央図書館で保管されるはずのもの。


 一つである片方は、死の力が宿った神器。それが、今白夜が持っている槍だ。

 もう一つである片方が、癒しの力が宿った神器。今新泉さんが持っている槍。

 その槍は今、愛佳と跪いている二人の前に、横にして置かれている。



「――世界の祝福を」



 最期に愛佳がそう言えば、湧き上がる歓声。これは認証式の初日の儀式が終わった合図であり、聖歌の終わりを継げ、そして祭りの始まりを示していた。

 一斉に人が出て行き、外にある出店などを楽しんでいる。



「はあ……、疲れるな」

 思わず声を漏らした。

「そうかい? すぐに終わったじゃないか」

「あんなに注目を浴びるのは苦手だ」

「堂々としていればいい」

「簡単にできるならやっているさ」



 笑いあう。残りのステージは、明日ある儀式だけ。もうわたしがリリス・サイナーの第二加護者だと広まっているのか、罵声もなかった。終わると随分気が楽だ。この調子で、明日もすぐに終わってほしいものだが……無理か、その前に秋名の襲撃がある。今日か明日かは分からないが、気を引き締めなければ。



「凛音。君が殺されるわけではないんだから、そこまで緊張しなくていいんだ」

「何故、殺されないと言い切れる?」

「秋名は僕が嫌いなだけだ。親友である君を殺そうとはしない」

「協力者がいる」

「秋名はディエニーゴ・コンテンデレと契約したんだ。今はもう反女王派のリーダー。協力者に指示することはできるし、そもそも君、リリス・サイナーの加護者だよ。第二で力が弱いとは言え、媒体加護者に負けることはないよ」

「…………」



 やっぱり、だ。やっぱり、愛佳は忘れていた。自分にとって娯楽にしかならないためか、それとも存在自体にあまり興味がないのか、それとも自分に敵はいないものだと思っているのかは知らないが、この親友はエレジィゲームのことをさっぱり忘れてしまっている。絶対的な力を持てることはいいが、それで危機感が薄れてしまうのは喜ばしい事ではない。



「悪魔や天使の加護者だったらどうする?」

「……ああ、そっか」

 ほら。

「まだその二つなら力の差は歴然。だが、可能性がないわけでもないんだぞ?」

「五大神の内のどれかの、加護者が、秋名の協力者だと?」

「ああ。特に死神は、女王が嫌いなことで有名だ」

「まるで僕のようだね!」

「あちらが来るのは今日か明日かも分からない。協力者の顔は分かるが、二人だけというのもおかしい。話したようにイリアと呼ばれた原罪の子も来るかもしれない。その上、秋名が愛佳を狙うのは決まっているが、他のメンバーは誰を狙っているのか分からない。誰が二つの槍の相手をするか。人数はこちらと同じだぞ」



 サイナーの資料を纏めたものによると、力の強さは順に、乃一桐吾、秋名、イリア、最後が東城大地となる。イリアと呼ばれたあの者が、原罪の子だと分かっただけまだいい。だが、秋名が愛佳を狙い、力により乃一桐吾とイリアは二つの槍を狙うことになるだろう。そうすると、残る相手は東城大地。自然に相手をするのは、そいつとなるのだ。サイナーは幻覚であることは知っているが、性質まで知ってはいないし、サイナーがそんな頭脳戦にしか使えそうなものだと油断してはいけない。精神異常で殺戮を好む乃一桐吾の従者だ。サイナー以外では戦闘に慣れているし、わたしは女でアイツは男。腕力も期待できない。



「そこまで心配なら、君は悠馬と一緒にいればいい」

「悠馬か……。そういえば、彼はアレイル・レートシンスの加護者だったな」

「――――おや?」



 そこまで言うと、愛佳が笑った。あ……。悠馬、そういえば、秘密にしてるんだったか? 多分そうだったと思うけど……、あれ、どっちだ? まあいいか。――いいのか?



「悠馬はアレイル・レートシンスの加護者だってね?」

「……わたしはもう行く。悠馬はどこにいる?」

「駐車場を出てすぐ横の屋台で、同じ信者の奏多くんと警固にまわっているよ」

「分かった。愛佳、お前も気をつけろ」

「はいはい」



 善処だけするよ、と言った。善処の意味を分かっているのか。いや、分かっていっているのだろう。だって、善処〝だけ〟をすると言ったのだから。全然気を付ける気ないな、愛佳は。まあそのかわり、従者である〝二つの槍〟がいるからいいが。

 もう注意はせず、悠馬のいる駐車場のあたりへ向かう。もう、中央図書館の中にいる人は皆無と言っていい。警固の者以外は、誰一人いない。それもそうだろう。今日はリリス・サイナーのための祝祭だ。全ての人間が楽しまなければいけないと思っているのだから。図書館の中にいても、何も楽しくないからな。本ならいつでも読めるしな。



「――――ん?」



 否。人が、一人だけいた。しかも、本を読んでいる。これは驚きだ。誰かを待っているのだろうか。

 その男は、茶髪に紫色の目をした――箕輪だった。



「箕輪、祭りにはいかないのか?」

 声をかけると、箕輪はようやく本なら顔をあげた。

「ああ、川島か。祭りには行くが、今待ってるやつがいてな」



 箕輪のわたしに対する態度は、かなり変わった。愛佳に対するようなあからさまな崇拝はないが、多少の誠意を見せるし普通に会話もするようになった。あの後はすぐに謝罪の言葉もあったのだ。そもそも箕輪は、愛佳の力に付けこんで不正をしているのではないか、ということを疑っていたためわたしを嫌っていたのだ。実は、根が凄くいいやつである。

 そうか、と言ってその場から立ち去ろうとすると、後ろで足音がした。振り返ると、見えるのは長めの茶髪。手には何故か金属バット。



「ああやっと来たか。――ではな、川島」

「ああ、今日はよく楽しめ」



 一緒にここから出ているところ、彼が待ち人なのだろう。軽く手を振って別れた。

 気のせいだろうか。――待ち人だった男の目に、狂気が宿っていたのは。



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