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リリス・サイナーの追憶  作者: Reght(リト)
第四章 偽物と異端者、神と親友の娯楽
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あと一日_Ⅲ


 神聖なる儀式。


 着慣れていない所為か、本当にサイズが合っているのか疑問に思う。

 二つの槍認証式当日。認証式が始まる前に花などの、当日にしかできないセットを終え、次は衣装を着替えることになった。

 神聖な神の目に見られながら、国と神に認められた騎士が忠誠を誓い、神子が信託を唱え、信者がそれを続ける。わたしは信者扱いに近いが、リリス・サイナーの第二加護者としてステージに立つため、一応正装をしなければならないのだ。


 着替えを手伝ってくれた愛佳の信者に例を言い、部屋の壁に立てかけられた姿見を見る。今日は、愛佳だけではなく愛神市の住人全てが、白い服を身に付けなければならない。正装であるわたしのドレスも、例外ではなく、純白だった。

 愛佳はフリルがよく着いたのを選んだが、わたしはシンプルなのを選んだ。

 首元には十字架のついたチョーカー。長めのオーガンジーを肩から羽織り、膝上まであるスカートを包む。白のニーハイソックスに、白のステップ・イン。黒髪のツインテールはそのままだが、左側に白百合の髪飾りが付けられている。


 馬子にも衣装とは言うが、中々の出来栄えだ。着飾っている自分でも、そう思う。

 愛佳はどうなっただろうか。更衣室を出て、また隣の更衣室に向かう。ノックをすると愛佳ではなく、信者の声が聞こえた。こげ茶色の茶髪のその子は、愛佳と同じクラスで、奏多というらしい。

 許可を貰って中に入ると、愛佳のドレス姿が目に入る。


 マリゴールドに例えられた、燃えるような橙色の髪は、いつものようにポニーテールに結んでいるのではなく、お尻あたりまで髪を切りストテートにされていた。両耳の後ろは三つ編みにされていて、同じく白百合の花と白ゴムで止められている。女王の名にふさわしいように、頭には小さなクラウン。いつもと髪型が違うのと、ドレスがビスチェのためか、可憐な印象があった昨日までとは違い、妖艶な雰囲気が感じられる。パニエでムズムズしているわたしとは対照的に堂々としていた。

 愛佳はわたしの姿を目にすると、白のライディング・ブーツを履いた足を組む。



「似合っているじゃないか、凛音」

「愛佳に言われると嫌味のようだな?」

「酷いね。純粋に褒めているのさ。馬子にも衣装だと」

「それは褒めているのか貶しているのか、よく分からん」

「なら、いつもよりも綺麗だと言った方がいいかい?」

「少なくとも、そちらのほうがましだ」

「辛口だね。服は白でも中は灰色のようだ」

「悪かったな」



 気分が高まっているためか、いつもよりさり気なく冗談が出てくる。愛佳もそのことに嬉しく思っているようだ。周りにいるのが信者が多い所為か、憎まれ口を叩くことができないのだ。結果はただ相手をへこませるだけになる。下手したら相手が死ぬ。自分の実力ではないとはいえ、リリス・サイナーの加護を貰っているのだから、少しでも機嫌を損ねたらならば殺されると思っている人もいるのだ。

 脱いだ服(私服の白装束)のポケットから、銀の指輪とピアスを出す。



「なんだ、それは?」

「今日は〝反女王派〟が来るだろう? 君はリリス・サイナーの第二加護者とはいえ、力が弱い。これは中央図書館(ここ)の倉庫にあった神器だよ。指輪がテレパシー、ピアスは一時的に時間をとめられるものだ。タイムリミットは一分。目的は僕と二つの槍だけど、一応持っておくといい」

「ピアスの穴は開けてないぞ」

「大丈夫。マグネットピアスに変えておいたから」

「勝手に持ってきていいのか?」

「僕を誰だと思っているの?」

 偉大で神聖で美しくて素晴らしい、リリス・サイナーサマだよ。



 まったくそう感情の籠っていない声で、そう言った。愛佳はリリスなどの神を、「神様」などと様付けで読んだりしない。冗談でも口にするのが嫌なのだろう、言った後顔を歪めた。それならば、言わなければいいのに。――ああ、言わせたのは自分か。


 ドアがノックされる。控えめのコンコンと音。このノックの仕方は、愛佳の両親どちらでもない。流石に朝からは来ないだろうと思いながらも、ドレス姿で構える。愛佳はまったく緊張感もなく、どうぞ、と許可を出した。さっきまでいや信者も、いつの間にかいなくなっていた。



「失礼します」

「用意出来たか?」



 入ってきたのは、どちらとも白色のタキシードを着た、二つの槍である新泉さんと白夜だった。新泉さんは左胸に、白夜は右胸に、同じく白百合が飾られている。武器である槍は、ケースに入れられてギターケースのように担がれていた。それにしても、新泉さんにスーツは似合うが、白夜が着るとただのスーツではなく、ホストがきたスーツのようだ。なんだか不純極まれなく感じる。



「おお、似合ってんな。流石!」

「お似合いですね、お二方」

「分かっているから褒め言葉はいいよ。そろそろ時間かい?」

「……はい」

「なら行くか。ひなつくん、上手くリードしてくれるかい?」

「喜んで」



 新泉さんは褒め言葉を当たり前だと言ってのける愛佳へ困ったように笑い、その後言われるがままに、愛佳の手を取る。美しい二人が並ぶと、まるで絵のようだ。華やかな衣装に、華やかな二人。写真を撮りたいが、生憎今手元にはない。

 悔しんでいると、少し困ったように、白夜が言った。



「どうする?」

「何がだ」

「だって、二対二だぜ?」

「は?」

「だから、手、繋ぐか?」

「――は?」

「二人とも、早くしないか」



 愛佳の急く言葉に、差し出された手。理解が出来ずに固まっていたが、その内意味に気付き、迷う。いつものわたしなら不埒だと一喝して断るが、愛佳たち二人がリードしてされて行くのに、わたしらだけしないのはどうなのだろう。それは、不自然ではないか?

 集まる視線。その中でも、愛佳の視線は早くしないか、と不機嫌になっている。



「なあ。その汚いものを触るよ覚悟のようなものはさ、必要なのか?」

「いや、そういうわけじゃないんだが………………宜しく」



 手を握った。白夜は蜜音さんのように、ニッと笑う。

 そういえば……、蜜音さんがこの状況を見たら、叫ぶんじゃないだろうか。あの人は自他認めるシスコンだから……。愛佳の両親がとめているのだろうか。



「まあその時はその時だよ。いざとなれば力で息の根ごと潰してしまえばいい。死んだとしても、リリス・サイナーサマのお力が見れて喜ぶだけだ」

「愛佳、不謹慎だぞ」



 よくない冗談に、溜息を吐いた。いくら綺麗な格好をしても、心の中が真っ黒だ。

 しかし、やはり心を読まれるのは気持ち悪いな。

 その時眉を顰めた白夜と、驚いたように目を見開いた新泉さんは、目に入らなかった。ただ、ブラックジョークを言ってどんどん被虐的になるのは、あまり関心しない。もっとポジティプに生きてくれないか。

 ――心を読んでいるはずなのに、こういう願望だけは無視する愛佳にそう言っても、あまり期待はしていないが。



「それじゃあ今度こそ行こうか。白夜、君は慣れてなさそうだけど、失敗しないでくれよ」

「オッケ。死ぬ気でやる」



 新泉さんが開けたドアに、愛佳が部屋から出て行く。自分も白夜にリードされながら、部屋に戻った。これからは、神聖な場所で神聖な儀式。それが終わったらようやく祭り。疲れそうだ。そう思いながら、会場へ入った。



『リリス・サイナーの登場です』



 マイクを入れた指揮者の声と、住民の歓声を聞きながら。



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