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リリス・サイナーの追憶  作者: Reght(リト)
第四章 偽物と異端者、神と親友の娯楽
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あと七日_Ⅱ


 壊れた物をどうやって直すか。簡単だ、それが当たり前だと思えばいい。


 事情の説明が終わったその後、一時間ほど箕輪くんと話して中央図書館を出た。箕輪くんは真面目に学校へ帰ることになり、蜜音はテストがやばいと真桐に連れて行かれ、凛音は委員会がありから一度戻ると去って行き、悠馬は渋っていたがこれ以上勉強ができなくなると蜜音の次にやばいらしい。


 結局家に帰るのは一人になったが、帰る時には〝二つの槍〟をお傍に置いてくださいと信者に頼みこまれたため、白夜を連れて家に向かっている。ひなつくんでもよかったけれど、セットの準備を邪魔して不機嫌だから、やめておいた。無理矢理連れて行っても面白かったけど、後で説教と称して愚痴を聞かされるのは面倒だ。



「というわけで白夜、喉が渇いたから何か買って来てくれるかい?」

「何がというわけで、何だよ。てか、この先に自動販売機があるから、ちょっと待てよ」

「でも、僕はマンゴージュースが飲みたくなっちゃって。僕の護衛はいいから、行ってきてよ」

「…………分かったよ」



 溜息を吐きながらも、仮でも主人の命令には逆らえず、渋々買いに行こうとする白夜。うん、それがいいよ。この先には、君の見たくないものがある。僕の家に来るときには、綺麗にしておくから安心するといいよ。――言わないけど。

 行こうとした白夜が、こちらに振り返り、緊張で動かなかった口を開いた。



「――聞かないんだな」

「何を?」

「俺が裏切っているのか、とかさあ」



 また呆れるように顔を歪曲し、また口を開く前に、こちらが遮る。



「お前な、」

「――また(・・)、自惚れているんじゃない?」



 目を見開く彼を嘲笑った。



いつだって(・・・・・)君は(・・)自惚れて(・・・・)いるよ(・・・)いいかい(・・・・)世界は君を(・・・・・)必ず(・・)必要と(・・・)しない(・・・)君が例え(・・・・)女だった(・・・・)としても(・・・・)男だった(・・・・)としても(・・・・)君は僕に(・・・・)惚れら(・・・)れるほど(・・・・)異常(・・)じゃない(・・・・)君はただの(・・・・・)藤堂白夜だ(・・・・・)



 その言葉で泣きそうに顔を歪めたのは、自分が性転換した時のことを思い出しての事だろう。きっと彼は、リリス・サイナーの言葉を信じて、僕が知らないものだと思っていた。でも、彼は信じるあまりにちゃんと僕の力のことを考えていない。本当は、悠馬が白夜に連れて行かれたと話を聞いた時、誰にも知られずに力を使ったのだ。


 白夜が女だったこと。それが、僕の体を操ったリリスだとか。

 白夜が自分の都合で秘密にしていることがあること。それが、知られていないと思うとか。

 別にいいさ。誰が君を束縛するもんか。そんな面倒くさい事しないし、されたくもないし、ましてや自惚れなんていらないさ。


 そもそも、自惚れと言われる理由を自覚していない。彼は自分が裏切ったことに、僕が怒ると思っていたのだ。それはなんてナルシズム。僕はリリス・サイナーの加護者だ。言ってしまえば、最高神と同等の力を持っている。リリス・サイナーの力は、【なんでも叶う力】だ。いざとなれば、藤堂白夜の存在を、元からなかったことにすればいい。


 白夜の背が見えなくなった後、歩道を歩く。世界の地形がゆっくりと形を変え、他の国と混合したため、過去で日本といえるこの国の地形は、チキュウだった頃から二倍へ広がっている。そうなると家も道路も大きくなり、今の僕の家はチキュウで通常の家の三倍近くある。それでも、あんまり大きいのが好きと言うわけではないので、僕の意見で三分の一は庭である。十分に凄いけど。



「だからってさあ……」

 家に着き、その庭で鼻歌を歌っている蜜音を睨む。

「人殺したら血が飛び散るんだよ? 広くて快適だからと言って、殺人までしないでほしいね」



 家の庭に死者一名。見たことない人だ。クラスメイトが部活仲間だろう。ナイフで心臓をぐちゃぐちゃあぷちゅ。ぐりぐりぐりぐり。あっとグロイじゃないか。あまり心臓を刃物で弄ると、血が出すぎて怖いよ? ――嘘だけど。もう慣れたしね。それでも、それでもね、僕はその死体を使いたいと思うんだ。綺麗なまま残しておいてよ。え、止めはしないよ。だって、もう死んでるし。


 手についた血を舐める蜜音は、よく見ると、いや、よく見なくてもいい男だ。僕も兄妹でなければ、惚れていただろう。血塗れじゃなければね。

 これ(・・)が、樋代家の血。必ず何かに(・・・・・)恵まれて(・・・・)生まれてくる(・・・・・・)家系(・・)

 これも、樋代家が有名な理由の一つ。


 僕が金目を持って生まれただけで凄いのに、母の弓佳と兄の蜜音は祝福の子で青色の目を持っている。父は紫で目は凄くはないが、血筋と頭脳が凄いと言われている。世界の中心である愛神市の、チキュウでいうなら愛神県の、重鎮である。勿論それ以外にも有名なところはあるのだが、話しだしたらきりがない。それだけ凄い名家が、樋代家である。



「蜜音」

「どうした可愛い妹よ」

「君はさ、どうして人を殺すの?」

「不快?」

「不快だけど嫌ではないよ。やめろとも言わないさ。ただ、純粋な問いだよ」



 この世界のどこかでも、自分が殺されないために相手を殺している人もいるし、死体を愛しているから人を殺す人もいるし、欲しいものを横取りするために殺すし、酷いことをされたから殺すし、そう、かの人は言っていた。自分の明日の食料のために、人を殺す戦争にでるのだと。それは殺されないために人を殺す正当防衛にも近いが、殺しは殺しだ。


 でも、今は殺されそうにもなってないし、死体を愛しているわけでもないし、欲しいものがあったわけでもないし、酷いことをされたわけでもない。勿論、食糧が欲しかったわけでもない。

 それならば、何故殺すか。そう問われれば、答えるのは一択。



「―――なんとなく?」



 それは、人が無意識という。

 それは、人が趣味という。

 それは、人が暇を潰すという。



「そうかい」



 人はそれを順応という。

 人はそれを慣れという。

 人はそれを無意識と言う。


 世界がそれだけ血に浴びていても、世界がどれだけ欲に塗られていても、世界がどれだけ狂っていても、世界がどれだけ残骸で埋もれていても、そこにいれば人はいつか慣れてしまう。それは保身であり、何より自分が傷つかないための防衛だ。

 いいじゃないか、自衛。ああ、本当に素晴らしいよ。ただそれがこんな世界じゃなければねえ。



 ――――世界は、今日も歪んでいる。



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