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リリス・サイナーの追憶  作者: Reght(リト)
第四章 偽物と異端者、神と親友の娯楽
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対腐敗世界、絶対正義の現状_Ⅲ


 オマケが多すぎる。


 話した瞬間に連れて行ってくれと凄い形相で頼み込んだ箕輪と、猛反対しながらも俺も行くと言った悠馬に、妹に会いに行くならと着いてきた蜜音さんと、蜜音が行くならとさらに着いてきた真桐さんを見た瞬間、愛佳が言った言葉は〝どうした〟だった。どうやら、薄情な親友から心配されるほど、疲れた顔をしていたらしい。

 同じように疲れた顔をした〝二つの槍〟の新泉先輩からは、労いの言葉をかけられた。正直彼の顔を見ていると、それは自分が言うべきだったのではないかと思う。



「随分とオマケが来たね。知らない子がいるけど」

「あ、あの! 私は愛佳様の親衛隊隊長をしております、箕輪雄輝です! 愛佳様が御出席されていないと聞き心配で、彼女に願い、同行させていただきました!」

「そう、箕輪くんね。まあいいけどさ、蜜音まで来たのはどうして?」

「なんで信者が良くてお兄ちゃんが駄目なんだ?」

「君が来ると保護者の真桐が来るだろう? あと、自分でお兄ちゃんとか言うな」



 いつ、真桐さんは蜜音さんを生んだのだろうか。まあ、保護者と言われて違和感がない時点でもう駄目なんだろうけど。だが、箕輪どうした。さっきまで一人称俺だっただろう。私って、私って、何とも言えねえ……。だが、残念ながらこれが信者の正しい反応である。しかも、親衛隊隊長だったのか。道理で、言ってくる(または突っかかってくるのが)一人だと思ったよ。隊長なら、代表だからな。

 って、あの数多い信者の中でのリーダーって、箕輪って、実は凄いやつなのか?


 多い、多すぎる。突っ込みどころが多すぎるぞ。

 途端に悠馬以外を他人だと思いたくなり、愛佳からも向けられた視線に顔逸らす。今更だと思うが、信者隊長に信仰対象、その兄と保護者と呼ばれる真桐さんに、純血とただの生徒というには語弊があるが、愛神市の制服を着ている悠馬。どう見ても奇妙だ。制服を着ていてよかった。リンチ中ではないかと、疑われる。――まあ、真面な人がいればの話だが。



「ところで、愛佳。至急とあったが、何の用だったんだ?」

 名前と呼ばれ、話が出来て有頂天になっている箕輪を放り、話を進める。

「ああ、そうそう、忘れていたよ。凛音、君、認証式でステージに出ないかい?」

「――――は?」



 認証式と言えば二つの槍認証式。二つの槍認証式と言えば、崇拝されているリリス・サイナーと国の宝である〝二つの槍〟の神聖な儀式。自分が神聖だとかは思わないが、それに出れば、自分は確実に愛佳の信者から――文字通り針のむしろである。愛佳に言えば、きっと笑ってこういうだろう。



「骨、拾うのが面倒くさいから、それは悠馬の役目にしておいてね」

「心を読むな。まあ、読んだのなら分かっているのだろうが、辞退させてもらう」

「よかったよかった、受けてくれるんだね。まあ、僕は信用していたよ? 凛音は親友思いのいい子だ。困った友達の願いを断るなんてしないよね」

「…………………」



 信者である悠馬と箕輪の前で、なんていうことだ。

 シスコンである蜜音さんの前で、なんていうことだ。

 もうこの場に味方は真桐さんしかいないが、彼も常識人である前にこの世界の住人だ。金目の愛佳が本気で願えば、自分に拒否権はない。ああ、自分で自分の口を絞めた。彼らを連れてくるんじゃなかった。

 だが、出てしまっても死亡確定。死亡フラグは今立った。



「大丈夫だって、君の紹介はちゃんとさせてもらうから」

「……なんと?」

「リリス・サイナーの第二加護者だと」

 ニンマリ。そんな擬音が付きそうな笑みで、愛佳が言った。

「――――は?」と箕輪。

「――――え?」と真桐さん。

「――――お?」と蜜音さん。

「――――はぁ!?」と悠馬。



 固まったそれぞれに振り返りたくなくなり、視線が集まると同時に頭に手を当て、俯く。愛佳はこうなると分かって言っている。敬語を使って挨拶した箕輪が、わたしを馬鹿にしていたことにも、黙っていても気付いているのだろう。少しでもわたしのことを気にしてくれたのなら嬉しかったが、これは明らかに彼女の快楽により放った言葉だ。怒りたくなったが、自分のためにもなるので、何も言えない。



「凛音が、……っ!?」

「リリス・サイナーのぉ~?」

「加護者ー」



 順番は悠馬、蜜音さん、真桐さんだ。三者三様、悠馬は口を塞がれて驚き、蜜音さんは可愛い後輩の頭を撫でながら笑顔、そして真桐さんは流石保護者と言われるだけあり、三人で言いたかったのを察したのだろう、苦笑でノリにのった。箕輪は一人分からず、混乱している。時々不安そうにこちらを見てくるのは、気まずさゆえか、それとも愛佳以外で冷静で知り合いなのが自分だけだからと言う縋りか。それもそうか。初めてでこのノリについていけるはずがない。



「蜜音、あんまり苛めてやるな」

「なんだよー、前髪ものってきたろー?」

「のらないとお前が煩いんだろ? 愛佳ちゃん、なんか言ってやれよ」

 困った風に笑う真桐さんに、愛佳は無邪気に笑って言った。

「面白いからいいんじゃない?」

 あの兄あって、この妹である。これで、弄られ役の悠馬と箕輪の退路は断たれた。残念。

「――――それで、言い出さないのは話を逸らしたつもりだったかい」

「成功すればいいな、と」

「無理無理。観念して出るといいよ。僕を引っ張っててくれ」

「そんなことして見ろ、リリス・サイナーは世界の支配者だぞ」

 その女王の前を歩くなど、不敬。針のむしろコースどころか血の海ルートまで出てくる。

「まあ、いいじゃないか」



 笑みを張り付けたまま、愛佳がそう言った。そろそろ助けてやるか、と箕輪の肩を叩けば、やっと我を取り戻す。移動しようと言って動く愛佳を追い、こちらを見ずに早歩きだ。悠馬は蜜音さんにやっと解放されたが、真桐さんの微笑ましそうなものを見る目にショックを受けながら、箕輪と同様愛佳を追いかける。わたしと蜜音さんと真桐さんは、その後をゆっくり歩いてついて行った。

 歩きながら、愛佳は経緯を話す。



「それがさあ、ひなつくんが〝今代はリリス・サイナーの加護者は一人なんですね〟って呟いていたからさあ、なんか驚かしたくなって、〝私だけじゃ不満だと言うのね……この浮気もの!〟って言って凛音の声で言ってみたんだ」

「やめれ。まじで」

「アハハッ。いやいやそれでね、散々突っ込んだ後〝なんで川島さんの声なんですか?〟って言ってきたから、良いかなって思って〝凛音って第二加護者だし、この声で適切でしょ?〟って返してー」

「世間話のように正体ばらすなよ……」



 エレジィゲームが始まってからは正体を明かすのは命懸けだと、彼女は分かっているのだろうか。いや、分かっていないはずがない。分かっていて言うのが彼女だ。文句を言っても〝リリス・サイナーノチカラハ、バンノウダヨ〟と返ってくるのだ。片言なのはもはや決定事項。彼女があの神について、感情を表すのは憎悪だけだから。



「まあ詳細を聞けば今が嫌でも参加したくなるよ。昨日、ちょっと色々確認してね」

「……どういうことだ?」



 彼女はひひッ、と笑った。こういった笑い声の場合、愛佳が本当に楽しい時だ。嫌な予感しかしない。




「認証式、前日か後日か(どちらか)は分からないけど、来るよ。――〝反女王派〟」




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