Prologue_Ⅰ
背景が真っ黒な空間の中、その少女は限りない〝白〟で埋め尽くされていた。
白い髪。地べたにつくほど長く、動くたびに空気と戯れている。
白い服、純白のドレス。白い靴に、首には白いリボン。まるで首輪のように、枷のように結ばれていた。
そして、金に輝く目。
その目が捉えているのは、その空間にいるもう一人の少女。〝白〟の少女が綺麗なのに対し、その少女は酷かった。容姿ではない、格好が。
バラバラに斬られた髪はボサボサで、元々の綺麗な――金の混じった橙の――色が今は汚れで分からなくなっていた。来ていた服は、破れに破れまくって白のワンピースが灰色に変色されている。ぞっとするほどの痩せ細った体、目には光が無かった。何もかもに失望した、〝無〟の目。
凛とした声が、その空間に響く。
――お前は死を願望とする?
〝白〟の少女が問う。〝無〟の少女はその問いに即座に答えた。
「勿論だ。早く消してくれないか……。私、お前のことを恨んでいるぞ? どうしてとめたりした」
無。驚くほど何もない、無。そんな意味を込めて、〝無〟の少女はそう吐き捨てた。
〝白〟の少女は笑った。その笑みは目の前にいる愚かな人間への、嘲笑。
――腐ったなお前!
大きな笑い声が空間を歪ませる。
「それは……もっと前の私に言ったら正解だったのではないか、と思う」皮肉すら耳に入らないとばかりに軽くあしらう。「私からもお前に聞きたいことがあるんだけどね」
――よい、言え。
「お前、私をどうしたい? どうして、私に、……私を、殺させなかった」
眉間にしわを寄せ、怒気帯びた声が、しかし殺気まではない。
手を上げる。そして、ゆっくりと手を下しながら、人差し指で〝白〟の少女の顔を指すと、手を下げるのをやめた。
「お前、何をたくらんでいる」
迷いのない目。
微かに、嘲笑った。
それに気付いた〝白〟の少女は、声でその表情を崩す。
――ゲームを、しないか。
〝白〟の少女は平然とした表情で言ってみせた。この場であり得ないことを言っているのだが、〝白〟の少女はまったく気づいていない様子だった。あるいは、気付いて言ったか。長い沈黙、沈黙。〝無〟の少女は少しだけ驚きの表情を見せたが、すぐに戻し、今度は不快の表情に変えた。
「ゲーム、……そんな理由で私をとめた、と?」
「そうだよ、ああ、そうだとも。我はお前の意見を聞こうなんか思っていないし、さらに言えば、お前に拒否権などない」
憎しみのこもった〝無〟の少女の確かな殺気に、〝白〟の少女は息をのむ。ビリビリと緊張感。それに耐えるように震える体。
――これはいい。
――お前は、確かな〈適応者〉だ。
――感じる。これほどまでの思いは〝―――〟以来だ。
冷や汗が頬を伝って落ちると、空間の中で少しずつ姿が見えなくなっていく。口が三日月の形に歪むのが分かる。目の前には殺意と自害の塊。自分を殺すのに迷いがない少女。
――期待できるぞ、これは。
声を出して笑いたいのを必死で我慢する。そして、いまだ怒声を出している〝無〟の少女に制止の言葉を発する。
「やめないか、〈アオイサクラ〉」
声は、ちゃんとした言葉だった。今までは、音のようなコエ。
ぴた、と声がやむ。〝無〟の少女は何か言いたいのか、もがいている。
「最後まで黙って話を聞くがいい」
命令口調で〝白〟の少女が言うと、〈アオイサクラ〉と言われた〝無〟の少女は、もがくのをやめる。そのかわり、威圧感はさらに増したが。
「ゲームに勝てば、お前を殺してやらんこともないぞ?」
普通なら恐れ、またもがき始めるが、しかし〝無〟の少女――アオイサクラは早く話を進めろと言わんばかりに相手を睨みつける。
「ルールは簡単だ。お前曰く〝腐りきったセカイ〟である〝チキュウ〟。それから千年後の世界〈イル・モンド・ディ・ニエンテ〉で新しい姿をやろう」
淡々と言葉を続ける〝白〟の少女。
「ゲームは実にシンプルだ。その世界で、同じく〈イル・モンド・ディ・ニエンテ〉に転生したお前の親友――――赤尾チルハを見つけろ。期限はお前が気づいてから一ヶ月。精々頑張りたまえ」
次に見たのは、覚えのない部屋――。
春、それは出会いと別れの季節。
初めて書きます。
誤字、感想待ってます!