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第三十八巻 その冷えた手に

或る雪の日の話。

初雪が人のまばらな公園に舞うのを、口までマフラーで覆いながら、記憶がそれに埋まるのを待つように眺めていると、どこからか歩いてきた赤いジャンパーの男児が、ゆらりゆらりとそれが落ちた所を指差して、向こうの母に向かって言うには、「ほら、雪の結晶がみんな手をつないだよ」 #twnovel




何をやっているのかという声にそちらの方を振り向くと、雪の中、多少の会話を交わす程度の知り合いが想い人と手を繋いで歩いてくるので、それを見なかったことにしたいと後悔の念に駆られていると、そいつの、いやぁ寒いねという言葉に、反射的に笑顔を貼り付けた自分が悲しくなる。 #twnovel




寒風に舞う雪の中、何も考えたくないという怠惰に身を任せて野原を彷徨う私の周りを、まだ野生の厳しさも知らないような若い一匹の野良犬が無邪気に駆け回るたびに、目の前に残されたその小さな足跡の軌跡に、もう去ってしまうのだろうかと思いながら、私は足跡を重ねようとする。 #twnovel




粉雪の中、公園のベンチに一人、まるで私のようなその姿、きっと分かり合えるのではないかという予感に、話しかけようか、逆に傷つけるのではないかと躊躇っていると、気付けばこの臆病者は、嫌われる覚悟はできているとばかりに、まだ足跡のない新雪へと一歩を踏み出していた。 #twnovel




雪の空から落ちてきて積もる音。雪の塊の樹から落ちる音。冷えた杉の葉の風に揺れる音。北風の地を這うように吹き抜ける音。まっさらな雪を踏みしめる音。舞う雪の向こうに人影。マフラーとコートと手袋。探るような視線。軽いお辞儀。白い吐息。お隣、いいですか?えぇ、どうぞ。 #twnovel

雪はすぐには降り積もらないけれど。

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