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第五巻 円錐洋館

「塵積」 今日、自販機の下に手を伸ばすスーツ姿の男がいた。いい大人の何と見苦しいことか。そういや昨日もおばさんがそうしているのを見たっけか。日本も終わりだな。そう思いながらツイッターを開くと、TLの拡散希望の文字が目に入った。「自販機の下のお金も募金箱へ!」 #twnovel




「窓口」 こんな僕でも誰かの役に立つのなら。そう思って募金窓口に向かった。と、会うなり受付の女性が大声で「ありがとうございます!」と頭を下げた。「いえ、僕にはこんなことしかできませんが」だが彼女は首を振った。「だってあなた、昨日私の家に入った泥棒でしょう?」 #twnovel




「ゴミ」 道で男が転んだ。人々は道を塞いでしまった彼を指差して言う。「邪魔なんだよ」「転ばないように、いつも気をつけろよ」「会社に遅刻したら賠償だぞ」当の彼は、膝小僧から血を流しながら頭を下げている。どちらがゴミかは問わないが、あなたはゴミかと尋ねたい。 #twnovel




「講義」 ……しかし、古代人類も世界中至る所との情報のやり取りが可能だったことが幾つかの古文書に見られます。これは”SNS”と呼ばれておりますが、その遺物及び遺跡は発見されておらず、未だ考古学史上最大の謎となっているのが現状です。…… #twnovel




「笑」 あなたは今日三回笑いました。最初は、場の空気を呼んで面白くも無いのに笑いました。二回目は、言葉に詰まってその場しのぎに笑いました。三回目は、そんな駄目な自分を嘲笑いました。そんな今日は、あともう一回だけ笑って終わりにしましょう。生きている喜びに向かって。 #twnovel




「恐怖」 野性の生き物たちは未来を憂うなんてしないのに、ヒトは未来に恐怖する。今の生活が無くなるのではないか。再び天変地異が起こりはしないか。それは普段は意識せずとも、何かをきっかけに突如現れる。それはまるで、扉の向こうの未知に気付いてから、扉に恐怖するように。 #twnovel




「ヘドロ」 大勢が見守る中、敗軍の将が処刑台に立った。あちこちからヘドロのような罵声が響く。だが彼は満足していた。人々の心の中にある底無し沼の栓を抜くことができたのだから。ヘドロは無くならないが、いずれ沼は水溜まりくらいになる。そう信じた平凡な命が、一つ消えた。 #twnovel




「円錐」 円錐を円だと見る人もいれば、三角に見る人もいる。断面から楕円だと見る人もいるし、切り取って台形だと見る人もいる。そして誰もが、これこそが真実だと信じている。誰も間違ってはいない。でも、それが真実ではないことに誰も気付こうとしない。自由は免罪符だろうか。 #twnovel




「儚」 何気なく、トランプを二枚もたれ合うように立たせた。そしてそれをもう一つ作り、一枚を慎重に上へ乗せようとした所で、城は虚しくも崩れ落ちた。でも私の手は再び二枚を取って、立たせようとしている。いつか完成するはずと信じれば、儚い一歩にも意味はあるはずだから。 #twnovel




「想像」 眼を閉じて手探りで何かを拾い、それの色形を30秒間思い出してみよう。例え自分の机の上であっても、案外見落としていたり想像とは違う部分があることにすぐに気付くはずだ。もしそうなら、あなたが一番信頼している人の心を想像して欲しい。何か見えないだろうか。 #twnovel




「潜虫」 ダイビングビートル、なんてカッコいい名前もあるゲンゴロウは、尾につけた空気の泡を酸素ボンベにする水生昆虫だ。実は分圧の関係で、泡に元々含まれていたよりも酸素は多くなるらしい。カオスな社会へ潜るダイバー達の酸素ボンベにも、そんな機能があればいいのに。 #twnovel




「真実」 「どうしたらいいと思う?」電話の向こうの友人は、彼女に別れを切り出されたらしい。「真実を見ればいいんだよ」「簡単に言うな」「簡単だよ。眼を閉じるんだ」「そんなんで見える訳が……」彼女の手作りだと自慢していたストラップの鈴が携帯の向こうでチリンと鳴った。 #twnovel




「洋館」 奇妙な招待状が届いた。「我々の宴にご招待します」差出人は不明だ。好奇心で訪れると、そこは山奥の古びた洋館だった。少々不安ではあったがノックすると返事があったので、私はほっとした。が、扉の向こうの会話が聞こえてしまった。「ママ~、人間の肉が届いたよ~」 #twnovel




「宴」 私は捕まった。誰に、と問われたら怪物だと私は答える。どうやら私は宴のメインディッシュらしい。まだ生かされているということは、良い食われ方はしないだろう。そんな絶望の淵に立つ私の耳元で、不意に声がした。「助けてあげようか?」声の主は、あの怪物の子供だった。 #twnovel




「山道」 私の軽自動車は山道を転がるように駆けた。怪物の子供を乗せて。彼はずっとあの洋館から出たことが無く、友達がいなかったのだそうだ。それにしても、うっかり承諾してしまったが、彼の交換条件は無茶すぎた。「まだ僕の友達の所に着かないの?」さてどうしよう? #twnovel




「コンビニ」 少し開けた場所に出た。街の灯りを見ていると、さっきまでの体験が夢のように感じられる。一方、彼は窓にへばりつくと、興味の眼差しをあちこちへ向けていた。「これは何?」「コンビニだよ」「コンビニって何?」「何でも売ってる所」「じゃあ友達も売ってるの?」 #twnovel




「友達」 どうしてもと言うので、目立つ顔を帽子で隠してやってコンビニへ入った。途端に「友達はどこ?」と商品を散らかし出したので、仕方なく「これが友達でどう?」と玩具を見せた。一瞬キョトンとしていた彼だったが、すぐに眼の色が変わった。「やっと会えた! 僕の友達!」 #twnovel




「夜明け」 夜が明ける頃にアパートに着いた。気付けば彼はぐっすり眠っていた。その手にはコンビニで買った玩具が握られている。起こさないように部屋まで運んでやりながら、約束を果たす方法が頭に浮かんでは消えていく。しかし、怪物というのはこんなに体温が冷たいのだろうか。 #twnovel




「季節」 春は桜。夏は花火。秋は紅葉。冬は雪景色。どの美しさも人の心の窓を叩く。そして煤けた硝子をちょっとだけ綺麗にして去っていく。その後ろ姿を眺めながら、誰もが窓ガラスに溜息を吐く。でも嘆いてはいけない。出逢いが別れだからこそ、心の窓に映るのだから。 #twnovel




「雨」 雨。それは古来より人に課せられた大気現象である。雨が降ると、人はその場しのぎに、傘の下や物影へ身を隠す。そしてその口から憂鬱に染まった溜息を、濁った水溜りへ吐き捨てる。でも雨は悲劇ではないことを人は知っている。【あ】明日には【め】芽が出るのだから。 #twnovel

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