第三十五巻 気球旅行顛末
或る奴隷少年が物語る。
今日は、僕の第二の人生が始まる日だ。僕はそう心に誓った。見張りの隙を見て、広場に係留されている気球の籠の中に潜り込む。ロープを外すと、籠は僕の小さな体を乗せて、ゆっくり浮かび上がった。怒声をあげる見張りを見下ろす。僕は、ふぅと息をついた。もう奴隷じゃないんだ。 #twnovel
気球旅行は風任せ。嵐があれば農家にお世話になり、街を見つければ物資を調達した。手持ちのお金は無かったが、気球の興行と生い立ち話で、生活できるだけの稼ぎにはなった。それは望んでいた自由な生活だった。一方、モヤモヤするものもあった。まるで気球のような、その生き方に。 #twnovel
気球で旅をしていた僕がある地を訪れた時、変な依頼があった。最近現れた赤い河の水源を探して欲しいというのである。その原因を探しに河を上っていったボートは、全て帰ってこなかったそうだ。僕はそれを快諾した。ゾクゾクと背中を走る快感を、僕はこの時初めて感じたのだった。 #twnovel
赤い河に沿って、僕は気球を走らせた。その水源を確かめに行った人達は、誰も帰ってこなかったという。やがて稜線から姿を現したのは、丘ほどもある巨大な華だった。流れ出た蜜が河を作っていた。その花弁の中には大小の動物の骨が見える。そうか、この赤は食った動物達の血の色か。 #twnovel
僕は気球を使った捜索で、巨大な食獣華を見つけた。しかし発見の興奮はすぐに萎えた。カメラが無いから証拠を残せないのだ。僕は火をつけた煙草を、上空から食獣華に投げ入れた。それが危険だからではない。ただムカついたからだ。以来、僕は探険という快楽の虜になってしまった。 #twnovel
その探検は、蜜の味。
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第二章 第十五巻 空を飛ぶクジラ
第二章 第三十二巻 欠けた魂たちの叫び