第二十一巻 決戦前夜の二重奏
深い闇に包まれた丘の上に、彼はいた。「明日は総攻撃だろ。夜更かししてていいのか?」だが彼は無言のままだった。「どうした。今更ビビってんのか?」「実はあの軍勢の中に友達がいるんだ」彼は敵陣地の灯りを、じっと見つめている。この静寂が永遠に続けと祈るかのように。 #twnovel
辺りが夕陽で染まる中、私は急いでいた。機体に不具合がでれば即座に直すのが、整備士の仕事だ。ところが整備場に着くと、機体は正常。変だなと思っていると、操縦席で泣き虫小僧がうずくまっているのに気付いた。エラーってこれかい。やれやれ、人間の整備は専門外なんだがね。 #twnovel
僕は操縦席で膝を抱えながら、そっと機体に語りかける。「こんなパイロットでごめんな。いつも泣きそうになるとお前の中に籠るような、そんなクズに操縦されたくないよな。でもさ、自分の弱さってどう見せればいいか分かんないんだ」硬くて冷たい金属に、僕の体温が伝わっていく。 #twnovel
「この席いいか?」「お。整備のおっちゃんも晩飯か?」「昼飯だぁよ。明日が総攻撃だから、てんやわんやさ。お前さんも忙しそうだな」「これから作戦会議だ。それより、さっきうちのエースの機体に不具合がでたって――」「はぁ!?聞いてねぇぞ。ああ、せっかくの昼飯が……」 #twnovel
総攻撃を控えた夜。俺は、彼がいるという丘を目指した。彼はエースパイロット。ただし自分の弱さを他人に見せずに抱え込んでしまうのが珠にキズ。若くして指揮官に任命された俺は、彼とは歳が近いのだが、まだ腹を割って話せていない。それでもこの足は、夜の丘を登ろうとしていた。 #twnovel
上からも下からも読めたりします。