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第十八巻 セレナーデはチョコレートの匂い

きっと俺は運が良い。この春、我がクラスに来た美少女転校生の席が、俺の隣になったのだ。これは教科書を見せてお近づきにならねば!ところが彼女が鞄から取り出したのは教科書。何という不運だろう。仕方ない、俺も準備を……あれ?「すみません、教科書を見せて頂けませんか?」 #twnovel




教室に人はいなかった。自由登校期間に国立大の二次試験が重なったせいだろう。私は推薦で受かっているが、気分は沈んでいた。携帯に目を遣る。「うん。放課後に待ってるよ」その2月14日に交わした約束を、彼はもう覚えていない。いっそ返信なんてしてくれなければよかったのに。 #twnovel




「やべぇ。大問3が全然分かんなかった」友人が俺の席に来て言う。彼と二次試験の会場も同じで助かった。「あそこは単純な作図で……」「そうか!お前、頭が良いのは変わんねぇな」そう言われても俺には実感が無い。受験直前の2月14日の朝に、交通事故で記憶を無くしたのだから。 #twnovel




転校してきてクラスに馴染めずにいた私を助けてくれたのは、彼だった。彼への感謝の気持ちが変わったのは、いつからだろう。この思いが伝わると信じて、メールを送る。「今日の放課後、教室で待っていてくれませんか?」もう一度、鞄の中のチョコレートを確認してから家を出た。 #twnovel




試験を終えた僕は、彼に話しかけた。「じゃ行くか」「どこにですか?」「あぁ、そっか。お前が記憶を無くす前に計画してたんだ。試験の後に遊びに行こうって」彼はメールを見返していたが、途中で目の色が変わった。「ごめん。行けそうにないや」あいつのタメ口は久しぶりだった。 #twnovel

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