第十七巻 姿なき声の届く先
時は平安の世。或る姫君は、夜中、何者かの気配を感じた。女房の名を呼ぶが、返ってきたのは男の声だった。「申し訳ない。私は陰陽師。訳あって猫を探していた」「陰陽師なら証拠をお見せなさい」「では、先の世を見通して進ぜよう。姫君、月にも人が住まうと聞いたら驚きますか?」 #twnovel
毎晩、姫君のもとに陰陽師と名乗る男が来るようになった。彼は庭先から未来の話を語るだけで、姿を姫君に見せることはなかった。「姫君、今宵は傀儡のお話を一つ。遥か先の世では、従者はみな傀儡なのでございます」「まさか」「それどころか、傀儡と恋をする御仁もいるのですよ」 #twnovel
或る日、姫君の屋敷に父と親交のある陰陽師が訪れた。姫君は、さりげなく尋ねた。「そういえば先の世を見通せる陰陽師がいらっしゃるとか。御存知ですか?」「いいえ、そのような陰陽師はおりませぬ。未来とは誰にも分かぬもの。未来を知ろうとする者には、天罰が下りましょう」 #twnovel
その夜、姫君は覚悟を決めていた。「参上しました、姫君」「もしやあなたは、ずっと先の世から来られた御仁では?」しかし姿の見えぬ男は答えない。「今宵は千年ほど先の世に現れた、くだんという妖かしのお話を一つ。くだんは牛の体に人の顔があり、人に予言を残して死ぬのです」 #twnovel
「姿の見えぬ御仁。今宵は私の話もお聞き頂けませぬか?」「拝聴致します」「或る所に虫を愛づる姫君がおりました。かの姫君は、病のために屋敷の外に出られぬまま、人知れず短い生涯を終えるのです」「しかし先の世では、かの姫君に心動かされる御仁も必ずやいらっしゃるでしょう」 #twnovel
Linked with:
第二章 第八巻 宇宙氷晶 ―ソラユキ―
第二章 第十四巻 ブレイク・タイム