第十三巻 冥王星の夢
彼女は天から降ってきた。宇宙艇の前方に漂っていた彼女は、救助されると開口一番言った。「今すぐ冥王星に連れて行きなさい」「いやだね」「私は上級市民なの。一般人は従いなさい」「悪いが俺は、迅速にお届けがモットーの恒星系間配達員だ。次の配達地までは降りられないよ」 #twnovel
「冥王星まで行かないなら、別の船に乗り換えさせなさい」傲慢な同乗者に、俺はため息をついた。「この辺を飛んでるパイロットは女に飢えてる。目撃者なんていない。生身で宇宙に捨てれば証拠も残らない。あとはご想像にお任せしますが?」世間知らずの上級市民様も、流石に黙った。 #twnovel
「私は古典文学が好き。あなたは?」「上級市民様は知らないだろうが、ネット上で人知れず活動する詩人がいるんだ。最近気に入ったのは『柔らかいベッドの中で 冥王星の夢を見た 温かいシャワーの中に 冥王星の砂を感じた』ってやつ」すると彼女は赤面した。「それ書いたの、私」 #twnovel
質問が俺の口をついて出た。「なぜ冥王星へ行きたがる?」「本当のことを言うと、今の生活から抜け出せるならどこだっていい。でも私は冥王星に惹かれるんだ。惑星から除外された小惑星。太陽系の果て。冥界の入口。そこで何かが変わるとも思えないけれど、何かは感じるかなって」 #twnovel
俺は、誰も見ていない所で宇宙空間に身投げするつもりだった。配達員をクビになったのだ。そこに彼女が降って来た。冥王星に行きたいと言う。だから見たくなってしまった。冥王星の夢ってやつを。「そろそろ冥王星に着くよ」思いがけない知らせに、彼女は俺をじっと見つめている。 #twnovel
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