第三巻 ジェラートチック・コレクション
「なんでここにある本は紙でできてるの?」女の子に私は答える。「それはね、ずうっと昔には紙しか無かったからだよ」「そーなんだ!ありがとう、司書のお姉さん!」後ろ姿を見送りながら、私は後悔していた。紙の本なら他の人と一緒に楽しめるからだと、言ってあげればよかったよ。 #twnovel
気付けば今日も深夜零時を過ぎていた。明日搬入される収蔵品の展示位置を決める作業は、まだ終わりそうにない。地球上の文化遺産は、全てこの博物惑星ミューズに展示される計画である。われわれ学芸員に、当分休日は無さそうだ。ひとまず珈琲でもいれよう。隣で寝ている奴の分も。 #twnovel
学芸員たるものフィールドワークは大切である。今日は、20世紀のローマを模した展示エリアで見学コースの検討をする予定だ。「スペイン広場だ!ジェラート食べていきましょ、先輩!」「仕事が先だ」「これもフィールドワークですから」ベスパのハンドルを任せたのが失敗だったか。 #twnovel
20世紀中期の北米展示エリアにて、人生初の野球観戦をしたことがある。スタジアムは大勢の観衆で埋め尽くされていた。こうした展示エリアの住人は、自律型アンドロイドによって再現されている。しかしホームランに沸くアンドロイド達の中に、機械の心など微塵も感じられなかった。 #twnovel
小さい頃、狐が化けた男の子と遊んだことがある。別れ際に彼は言った。「次に会う時まで、きれいな葉っぱを集めておいてよ。変化の術に使えるんだ」それ以来、葉っぱ集めが趣味になった。夫にもコレクションを度々見せている。でも、まだあの時の狐だと明かすのは恥ずかしいようだ。 #twnovel
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第十巻 逸脱者たちの行進