第十八巻 鯉のぼりが消えた
唐突ではありますが、今巻より一巻十作で更新していきます。
葦沢
「ごちそうさま」皿を下げろ、とロボットに目を向けた。「博士、食べ残しがあります」「ピーマンは苦いからね」「好き嫌いはよくありません」「代わりに野菜ジュースでも飲めばいいだろう?」「駄目です。代償なしに何も得ることは出来ないのが人間だと、プログラムされております」 #twnovel
「ねぇ、君はなぜそんなことをしているの?」彼は路傍に立っていた。今日も、昨日も、先週も、先月も、彼はいつの間にかそこに、立っていた。その理由を尋ねる勇気を、僕はようやく振り絞ったのだった。「ナゼって、一度転んだからさ。こうしていれば、また転ばなくて済むだろう?」 #twnovel
トン、カン、トン、カン。金槌の音が油臭い空気を震わせる。それに慣れさえすれば、この仕事も悪くない。遊具を作り続けるだけの、簡単なお仕事だ。ただただ無心にトンカチを振り上げ、ノコギリを引けばいい。だからだろうか。これで遊ぶ人間からの激励の手紙は、一度も来ない。 #twnovel
「緊急事態発生! 目標が出現しました。座標はTL-3。目標はすでに拡散を始めているものと思われます」「拡散速度は割り出せるか?」「今やっています」「しまった! すでに第3形態へ移行しています」「何っ!? こんなに速かったか? ネタハッシュタグの進化は……」 #twnovel
ここまで来てまた就活か。とも思ったが、選べる職種は案外多い。驚きだ。適当に調べて「メディア系」に見当をつけ、会場へ向かう。途中、タクシーの運転手と話が弾んだ。「君ならテレビとか向いてそうだね。俺は大勢を相手にするのは苦手でさ」「それで幽霊タクシーの運転手に?」 #twnovel
記者としての初仕事は海洋研究者への取材だった。「なぜこの仕事を?」「小さい頃、イルカになりたくてね」「海を自由に泳げますからね」「なら魚でいいじゃん」「?」「イルカはね、片方の脳だけ寝ることができるからスゴイんだ」あれ? なんで自分は記者をしているんだろう……。 #twnovel
ケルト音楽をかけると、お湯をかける時になって電気ケトルの開ける所がロックされていなくても気付けるとのことです。スケルトンの製品では、自動で透けるという仕様になっているので、ケルト音楽をかけるという手間を省けるということになります。湿気ると溶ける時もあります。 #twnovel
寂れた洋館。横たわる死体。容疑者は二人。「俺はやってない……てことは、お前が」「僕も違うよ。こんな人、知らないし」二人の間に立ち込める疑念の霧。犯人はどちらか。それとも第三者か。「お前たちが、そして私が、やったんじゃないか」そう言って現れたのは、第三の人格。 #twnovel
まさかバスジャックに遭うとはね。しかし俺を巻き込んだ犯人は不幸な奴だ。俺をスリだと疑うはずもなく、難なく拳銃を奪い取ることができた。ただ使い方が分からないが、世の中は便利になった。製品をカメラで写せば電子説明書が手に入るのだ。「カシャッ」「おい、何してる」 #twnovel
五月五日、こどもの日。全国で鯉のぼりが空を泳ぐはずのこの日、ついに空から鯉のぼりは消えた。こどもがいなくなった訳ではない。人が住めなくなった訳でもない。鯉のぼりはバーチャルグラスの向こうで支柱から放たれ、大空を自由に泳ぐ時代になった。ただ、それだけのことである。 #twnovel