第十七巻 放物線の向こう側
雪の日。ドライブしていると車道の真ん中で何者かがとおせんぼうをしている。それは雪だるま。悪戯だろうか。降りて辺りを確認してみたが、道の先に危険がある訳でもない。避けて先へ行ってしまおうか。だが振り向くとそこには、こちらへ向かってくる自動車と、運転席の白い影が。 #twnovel
俺の最後の試合は土砂降りの雨に阻まれた。「先輩の引退試合、中止になっちゃいましたね」「いいさ。ひっそりと去るのが性に合ってるし。それに、水たまりが消える瞬間なんて誰も見たことないだろう?」後輩が首を振る。「いいえ、いますよ。水たまりが大好きなアメンボが、ここに」 #twnovel
その朝、家庭科室に多くの生徒が集まっていた。部屋の中にキリンがいたのである。誰がどうやって入れたのかと、全校で騒ぎになっていた。と、そこで一人の男が呟いた。「おっと、いけない」そして彼は消しゴムとペンを取った。気付けばそこには「みりん」が置かれているだけだった。 #twnovel
本日もネジに緩みなし。持ち場の点検が終わると、僕はいつもこの塔からの景色を眺めることにしている。夕陽に照らされるビル群。その隙間には帰宅する人々の影。それを見ると、明日のやる気が湧いてくる。たとえ、この塔が繁栄していた頃のホログラムを映しているだけだとしても。 #twnovel
ようやく地球上の全ての生物が人間のコントロール下に入った。神経中枢に埋め込んだチップで、例えば渡り鳥の移動時期を自由に設定することができてしまう。--「艦長、ようやく第一フェイズが終了ですね」「あぁ。だが、あれと同じものが自分達にも移植されていると気付くまい」 #twnovel
赤道直下の群島で、不思議な模様をした羽根を持つ鳥が発見された。計26の亜種がいて、姿形は一緒なのだが島ごとにそれぞれ模様が違う。さらに奇妙なのは、模様は遺伝せず、生まれた島によって決まるのである。生態学者は親しみを込めて、その鳥をこう呼んだ。「アルファベッ鳥」 #twnovel
電子書籍は文学に革新をもたらした。それは決して販売方法だけではない。読み方をも変えた。ニコニコ動画に倣ってコメント機能が実装されたのだ。見知らぬ誰かと感動を共有し、文学的議論をする。それが作家にも伝わり、筆先を変える。今はまさに、紙を捨てた文章が翼を得た瞬間だ。 #twnovel
スパイ用品店。そんな奇妙な看板に惹かれた、休日の午後。並べられているのは、ただの日用品にしか見えない。気付くと、レジに座るおじさんから好奇心の目が向けられていた。こちらの怪訝な目付きに、おじさんは言う。「案ずるな。事情は分かってる」それが言いたいだけだろ、絶対。 #twnovel
レムロイは、らいていたよ。あのレムロイが、らいていたよ。レムロイは、らけなかったのにね。らいてみたかったらしいけれど、らこうとしないから、らけなかったんだ。早くらいていればよかったんだ。そうすれば、レムロイは、らけないことを、らくこともなかったのに。 #twnovel
エイプリルフールの起源はね、一説によると、昔のイタリアの王様が戦争で遠征している時に、お城に残してきた幼い王女が病気になっちゃって、今から王様を呼び戻しても間に合わないだろう、ということで、側近が王様のフリをして王女を看取ったのが4月1日だったからなんだってさ。 #twnovel
エイプリルフールの起源はね、一説によると、マケドニア帝国のお抱え学者だったコレウソスが大衆の前で講義をしていた時に、ふと投げかけられた質問に答えられなくてつい嘘を言ったら、それを見破られたのが4月1日なんだってさ。ちなみにその質問をしたのが、後のアリストテレス。 #twnovel
エイプリルフールの起源はね、一説によると、とある昔の王様が、人々に嘘をつくことの罪深さを自覚させるために、わざと嘘をついてもいい日を制定したのが4月1日だったんだってさ。でもその王様はね、みんながちゃんと自覚したら、すぐにやめてしまうつもりだったんだよ。 #twnovel
雀がニャアと鳴いた、らしい。息子はもう十歳になるが、まだそういう年頃ということか。「そんなはずないだろ」「じゃあ本当だったら何か買って」「いいぞ。ただし『雀』って名前の猫は無しな」「いいよ」ニヤリと笑う息子が部屋に招き入れた友達の肩には、オウム。「ニャア」 #twnovel
突然送られてきた黒い箱。これはどんな願いでも叶えてくれるという。では早速。「美味しい物が食べたい」すると電話が。いきなりキター!と思いきや「シフト、今から入れる?」--差し入れもなくバイトは終了。やれやれ。帰り道、自腹のあんまんを頬張りながら呟いた。「美味しい」 #twnovel
この春、高校生になった。親は「入試が無くて良かったね」と言う。最近オーダーメイド教育といって、個人の遺伝子に合わせた教育制度になったのだそうだ。でも私はイヤ。中学の友達とは離れ離れ。好きでもないのに数学の授業ばっかり。まぁ、もう不登校だから関係ないのだけれど。 #twnovel
このところマンションのエレベーターの調子が悪いらしい。週に一度は「点検のお知らせ」という張り紙が掲示されている。その度に最上階の僕は、非常階段で上り下りしなければならない。ところが今日はこんな張り紙が。「【お知らせ】 今週の木曜日に『点検のお知らせ』を張ります」 #twnovel
早朝アシスタントから電話があった。コンスタントにプロテスタントへのインスタント食品の提供をするコンセンサスを証明する書類にサインをしろと言う。「朝はスロースターターなんだが」と言っても聞かないコンピテンシーに敬意を表して、急いでミスタードーナツを頬張り家を出た。 #twnovel
その石は放物線を描いていた。僕はそれに、颯爽と翔ぶ姿に、見覚えがあった。あれはまだ小学生の頃。指先から放った小石は水を切り、滴を跳ね、その度に水紋が広がって跳んだ足跡が残り、そして消える。その感覚が他人の水切りを見たら不意に蘇った。もう右腕は動かないのだけれど。 #twnovel
久しぶりに自転車を漕いだ。というか、自転車が久しぶりに漕がれた。キィキィと懸命にペダルに加えられた力に応えている。まだ壊れちゃ困ると話しかけながら、坂道へ向けて速度を上げる、はずだった。が、上がらない。キィキィと鳴いているのは、この膝だ。 #twnovel
「最近よく聞きますけど、『すごい嬉しい』って誤用ですよね?」とツイート。「それはすごい間違ってますよ」とリプライ。「それも誤用じゃないですか。それとも、わざと?」と反論。「すごい人だと思ってたのに残念です。ブロックします」と上から目線。「それで合ってます」了。 #twnovel